PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。 「仕事」とは、単に"生活のために稼ぐこと"ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、また人間と社会との繋がりを与えてくれること。 本連載では、そんな仕事を"シゴト"と呼び、"シゴト観"とその背景を紐解いていきます。
欲しいモノが、高くて買えない。じゃあ、自分で作ればいい。
Ishibashi Fumioさんは、CGを始めたきっかけをそう語ります。
多摩美術大学の学生ながら、PREDUCTSをはじめいくつかの企業でCGのデザインを手がけるIshibashiさん。職人的にフォトリアルなCG技術を追求する姿勢を持ちつつも、あくまで「CGそのものに興味があるわけではない」といいます。
欲しいモノを眺め回したくて、結果としてCGにたどり着いたという、偏愛が起点となった"シゴト観"を伺いました。
学業と仕事、二つの軸で走る日々
はじめに、現在のお仕事を教えてください。
3DCGレンダリングをしています。モデリング、ライティング、マテリアル作成が主な担当で、ジャンルとしてはフォトリアルです。手に取れるくらいの大きさのプロダクトが案件としては多いかなと思います。
PREDUCTSやMelt Mouseのように継続的に関わるプロジェクトもあれば、デザインスタジオからCMF(Color, Material, Finish)の検討や、広告用の画像素材、提案用のビジュアル制作の相談をいただくこともあります。
プロダクトの試作を何パターンも物理的に作ると時間もコストもかかるので、それをCGで代替するような仕事が多いですね。
学業についても教えてください。大学では何を専攻されているのでしょうか。
学科としては、多摩美術大学の統合デザイン学科です。
平面も立体も、データデザインや情報編集も含めて、デザイン全般を横断的に学ぶ学科ですね。特定の専門技術を深掘りするというよりは、それぞれの領域を結びつけて、ちょうどいい部分を探っていくようなものでしょうか。
「統合デザインとは何か」を考える授業もあり、それ自体も考え続ける対象のようなものでもあるので、テーマとしては抽象的なものだと思います。実習系の授業が多い学科で、例えば、モデルを作って写真を撮る授業や、食器をデザインしてCGでビジュアライズする授業などがありました。
大学での学びはCGの実務にも活きていますか?
ディテールの解像度が特に上がった感覚はあります。入学前は、プロダクトを見て「ここ、もっとこうなったらいいのに」と軽く思うことがあったんです。ですが実際に作る側の視点になると、これまで想像もしていなかったような点まで作り手は考えていることが理解できる。その経験は、レンダリングにも影響しています。
例えば、以前だと「もう少しリアルに」くらいの感覚だったのが、「ここに光を集めた方がいい」など、より具体的に捉えられるようになりました。技術が上がったというよりは、物事の見え方が変わった感じです。
プロダクトのモデリングをしている時にも、「この面の曲線処理と、この面をつなぐと、端に不自然な膨らみが出てしまうな」というのに気づくことがあります。距離が近い開発チームなどでは、それをフィードバックすることもあります。
CGではなく、デスクが作りたかった
CGに興味を持たれたきっかけを教えてください。
CGへの興味というよりは、「PREDUCTSのデスクを作りたい」というのがきっかけなんです(笑)。
高校生の頃、コロナ禍で自宅のデスク環境を整えるのが流行っていて、自分もデスク周りを整えることに興味を持っていました。そんな中、PREDUCTSに出会って「これは欲しい」と思ったんです。ただ高校生が気軽に買える値段ではなかったので、「じゃあ作ろう」と思い、仮想空間の中に理想のデスク環境を作るために3DCGソフトのBlenderを触り始めました。
理想のデスクやスピーカーとかを置いて、理想のデスクセットアップを作り上げたら面白そうだなと。
Blenderは以前から使われていた?
いえ、PREDUCTSのデスクをつくったときが、はじめてに近いです。
チュートリアルを見ながら少しだけ触ったことはあったのですが、その時はなかなか上手くいかず、割と早々に諦めてしまったので。デスクを作るにあたっては、最低限の操作だけ調べてあとは使いながら覚えていくようにしました。
「つくる」だけであれば他にアプローチもあるようにも思います。その中で、なぜCGだったのでしょうか。
眺め回したかったからです(笑)。絵だと一つの角度からしか見れません。ですが3Dなら、ぐるぐる回して好きな角度から眺められます。
実際、PREDUCTSのプロダクトをはじめて見たポップアップイベントでは、2時間くらいずっと眺め回していました。他の方は数十分くらいで帰られるんですが、僕だけずっといろんな角度から眺め続けてて。少し気まずさもありましたが、それくらい眺め回すのが好きなんです。
実際形になったとき、満足度は高かったですか?
それが、全然でした。形にはなったものの、自分が思っていたようなアウトプット、クオリティには全くならず。クオリティを上げようと延々とやり続けて、今にいたるような感覚です。その意味では、今もまだ全然満足できるものは作れていません。
そうしたクオリティへのこだわりが、CGにのめり込まれていったきっかけに?
というよりは、モノが好きだからだと思います。CGそのものを極めたいという気持ちは今もそこまでなくて、好きなモノをちゃんと再現したい。だからクオリティを上げたいという順番です。
「モノ好き」を生んだ環境
モノへの関心はいつ頃から?
多分物心ついたころからずっと好きだと思います。
最初に意識したのは、家にあったiMacでした。大学教授の父が仕事上必要で置いてたものです。そこからApple関連でいろいろ調べていくうちに、モノへの関心が高まると共に、他のブランドにも興味が広がっていきました。
中でもデザインという意味で熱中したのはBang & Olufsenです。Appleはプロダクトとして好きだったんですけど、Bang & Olufsenは「デザイン」という観点で惹かれました。すごく奇抜に見えるんですが、使ってみるとちゃんと理にかなっている。
たとえば、Beolab 8000というスピーカーはオルガンのパイプからインスピレーションを得た造形なんですが、音の広がり方を考えるとその形に合理性があるんです。奇抜なんですが、自然と目に入る、脳のどこかで慣れているような感覚を得られる形をしています。総じて、Bang & Olufsenのプロダクトは見ていて幸せになれるものが多いと感じています。
そうした感覚は、どのように育まれたのでしょうか。
親の影響は大きいと思います。まず、幼い頃はレゴのおもちゃしか買ってもらえませんでした。ラジコンが欲しいと言ったら、レゴのラジコンが来るみたいな(笑)。絶対にレゴしかない、みたいな時期がしばらくあって。
自分で買い物をする年齢になると、「ちゃんとしたものを買え」と言われるようになりました。お小遣いで適当なイヤホンを買おうとすると「ちゃんとしたものを買えないなら買うな」と言われたり。「買うならこれにしろ、買えないなら買うな」という感じです(笑)。
結果的に、適当なモノに触れる機会がなく、ある程度こだわりをもったモノに囲まれた環境にいられたのだと思っています。
理想と実用のあいだで揺れるワークスペース
現在のワークスペースについても教えてください。
いまはPREDUCTS DESK - FOREST / Standingの160cmモデルを使っています。机上はモニター3枚とHHKBとLogicoolのMX Master 3s、iPad mini、WORK LOUDERのCreator Microを設置し、足元にPCが2台、うち1台はPC Mountで吊り下げています。
ただセットアップという意味では、実は現状、理想とは別の方向に進んでしまっているんです。本当は160cmか180cmの大きなデスクに、ウルトラワイドモニター1枚と、両サイドにスピーカーを置いたシンプルな構成にしたいと思っているんです。ですが、実際は実用性の観点からモニタの数が増え、今では3画面構成になっています。
自分はCGを扱う際はフルスクリーンで1枚に1画面を使うので、複数のものを同時に見たい場合にはそれだけ画面の数が必要になるんです。Blender、リファレンス、そしてSlackやファイル管理。これを並べるには3画面がちょうどよく、快適に作業ができています。
ですが、理想はウルトラワイドモニター1枚なんですね。
そうなんです。今の環境も利便性という意味では満足しているものの、理想としては1枚にしたい。スピーカーを左右にちゃんと置きたいのですが、今の構成だとスペース的に難しいという意味でも、アップデートしたいと思っています。
ただ、今の家だと大きいデスクを置くにはスペースも足りないので、アップデートには引っ越しが必要だと思います(笑)。その時は、デスクをもう1台置きたいです。
作りたい、という根源的欲求
今後の展望を教えてください。CGはやはり軸足になってくるのでしょうか?
いえ、やはりCGでトップを目指そうという考えはありません。
ただそれが今ちょっと実務上ではネックになっている部分でもあって。CGに興味があって始めたわけじゃないので、技術的に欠けている部分がある。布のリアルな質感を出したり、テクニカルなアニメーションをつけたりなど、ソフトウェアの深い機能を使う表現で不足を感じる機会が多く、最近はその穴埋めを急務として取り組んでいます。
ただ、それを深めることは目的ではない。
そうですね。CGは楽しくて好きですけど私は物理的なものも好きなので、CGを一つの手段としつつ物理的なほうにシフトしていきたいと考えています。多分作ることが好きなんだと思います。
ありがとうございました。