Apple Watchの充電器をDASHBOARDにマウントするモジュール『Mount for Apple Watch』の販売を開始しました。
アルミ切削で仕上げたボディに、Apple純正の充電器をはめ込んで使用するモジュールです。DASHBOARDのレールはもちろん、側面のネジ穴にも取り付けが可能。Apple Watchのほか、AirPodsの充電にも活用できます。
機能としてはとてもシンプルなプロダクト。にも関わらず、その設計には意外なほど長い時間を要しました。あらためて"PREDUCTSらしさ"と向き合ったそのプロセスをご紹介します。
長年、開発候補にあったモジュール
Apple Watchのマウントというアイデア自体は決して目新しいものではないかと思います。デスクシェルフに設置するものとしては定番ですし、ユーザーの方々の中にも3Dプリントで作られている方もいらっしゃいます。
私たち自身も、実はApple Watchの充電器をマウントするモジュールは大分前に3Dプリントで試作をしていました。
ですが、製品化までは少し距離があったのも事実です。
なかなか「これなら」と思うアイデアにたどり着けず、DASHBOARDのシステム全体においては有用とは思いつつも、優先度が上がらない期間がありました。
そんな中、改めて開発するきっかけになったのが、Headphone HangerやBag Hangerで得たアルミ切削の知見です。その後もGadget Clampなどの開発を通し技術と造形に対する理解を深めたのを機に、切削ならいいプロダクトが作れるのではないかと考え、設計がスタートしました。
機能的にはOKだが、本当にこの造形でいいのか
Mount for Apple Watchは機能的には非常にシンプルなプロダクトです。充電器を本体に据え付けるだけ。それゆえ設計の自由度が高く、意匠もこだわれる余地が比較的広いものでした。
まずはスケッチを書き、設計に落とし、3Dプリントで試作という流れで徐々に造形の検証を重ねます。ある程度まとまってきたら、アルミ切削の試作に切り替え。より実物に近い形で造形を突き詰めていきました。
……と書くと着実に進捗したように見えますが、実際はゴールが見えない日々がかなり長くありました。普段であれば、いくつかのバージョンを重ねていくと、ある程度目指すべき方向がざっくりとでも見えてきます。しかし今回は、幾度試作をしてみても「なんか違うな…」と考えこんでしまうばかり。
「機能的にはOKだが、本当にこの造形でいいのか」
機能がシンプルなものだからこそ、造形の手がかりがなかったのかもしれません。
PREDUCTSらしい造形を考える上で、私たちはHeadphone Hangerをひとつの基準として捉えていました。あのプロダクトで生まれた曲面の使い方、厚みの絞り方——それを何とか今回も反映できないか。そう考えて造形を寄せようとしたのですが、機能も構造もまるで異なるプロダクトに同じ造形言語を当てはめようとしても、どうしてもしっくりこない。
そこで一度実物での検証を止め、「PREDUCTSらしい造形とは」について改めてディスカッションをおこないました。いくつかのキーワードや造形の定義を整理し、そこから再度バリエーションを作り、当初のアイデアより曲線を取り入れた方向で再度検討をしていきました。
とはいえ、このプロセスが明確に効いたか?といわれると悩ましいものでもありました。これ以降グッと進んだ感覚もあまりなく、Headphone Hangerへの思い入れを断ち切れたわけでもありません。それでもバージョンを重ねるうちに試作の精度が上がり、自分たち自身「ツッコミどころのないもの」に収斂していきました。ただ、量産に回す段階でも「これだ」という確信はないのも事実でした。
ところが、出来上がった製品を手にしてみると、不思議と「ああ、これが一番良かったんだな」と思えたのです。Headphone Hangerと同じ造形を反映したわけではないものの、それでもPREDUCTSらしいと思えたのです。
改めて考えると、造形表現は、あくまでらしさの表出にすぎません。プロダクトや、ブランドとしてのフェーズが変われば、"らしさ"の表れ方も変わる。根幹は変わっていないものの、いまのPREDUCTSが『Mount for Apple Watch』をつくるならこれで間違いないと改めて確信を得られたのです。
「はめ込む」ゆえの、充電器との格闘
この造形の議論と並行し、実はもうひとつクリティカルな課題がありました。それは、取り付ける充電器に微妙な寸法差があることです。
Apple純正品への対応を想定していたものの、同じ純正品でも世代や付属するApple Watchのモデルによって、充電器本体やケーブルの仕様が細かく異なっていました。直径の差は0.1mm程度ですが、厚さでは2mm近いばらつきがある。見た目にはほとんど同じ充電器でも、はめ込むことを考えるとかなりの差異が存在していたのです。
設計に際しては、この寸法差を吸収し、どのモデルでもある程度「ぴったりとはまる」ようにしなければ使い勝手が悪くなってしまう。非常に細かな寸法の詰めと、取り付け方の検討を重ねる必要がありました。
加えて、アルミ切削での試作段階でさらに厄介な問題が表面化しました。3Dプリントの樹脂にはわずかなしなりがあり、多少の寸法差を吸収してくれていたのですが、アルミにはそうした柔軟性がありません。固すぎて充電器が入らないもの、入っても二度と抜けなくなるもの、逆にカパカパと遊んでしまうもの——同じ設計でも、充電器の世代によって結果がまるで違ったのです。
最終的にはある程度まで切削側で調整した上で、充電器が収まる部分にラバーを巻き寸法差を吸収することに。ラバーの厚みや溝の形状を詰めるにあたっては、手元にあったApple Watchの充電器を全てサプライヤーに送り、現物合わせで微調整を重ねています。
これによって、固すぎることもゆるすぎることも無いバランスを実現しました。
静かなパートナー
機能がシンプルだからこそ、深める余地のあった『Mount for Apple Watch』。
立ち上がりこそ早かったものの、ある程度仕上がってからが長かった。造形を模索し、充電器との嵌合を詰め、出来上がったものを見て初めて腹落ちする——そんな、少し変わった開発プロセスを経たプロダクトでした。
派手なプロダクトではありません。ですが、手を伸ばせばいつでもApple Watchを充電できるこの小さなモジュールは、きっとデスクの上で静かに、でも確かに役に立ってくれるはずです。
