本日より、Headphone HangerとBag Hangerを発売します。
これら二つはいずれも同じ加工方法で作られ、ほぼ同時に開発されたもの。非常に似ていながらも、単に「用途が異なる」だけではなく、明確に違う方向性・役割を持ったものとして開発されました。
「こだわりを詰め込んだものと、バランスを丁寧におさえたもの」、「フラッグシップと実用品」そんな対比をしたくなる両者。その分価格も倍近く異なるのですが、一見同じように見える両者にはどのような差異があるのか。
その開発背景を時間を追ってご紹介しつつ、両者の特徴と差異をお伝えします。
切削加工を起点に、再び開発を開始
はじまりは、以前販売していた『Headphone Adapter』というモジュールでした。
Headphone Adapterは、その名の通りヘッドフォンを天板裏につけるためのモジュール。ブランド立ち上げ初期に開発したもので、比較的ご好評をいただいていました。
ただ製造が3Dプリントによるものだったため、耐久性や歩留まり、コストバランスなどの面から満足のいくものを安定的に提供し続けることが難しく、長らく欠品状態が続いてしまっていました。
度々お問い合わせをいただいたりすることもあり、私たちもなんとかご提供できないかと幾度か可能性を模索したものの、なかなか良い形を見いだすことができず。気がつけば数年の月日が経過。そんな折、全く別のモジュールの製造を進めていくなかで私たちはある加工方法を用いることに気がつきます。それが切削(削り出し)です。
きっかけは、PREDUCTS DESKに不可欠なBase Sliderという製品でした。
このBase Sliderは、2023年の夏頃よりサプライヤーと製造工程を見直しを行いました。その結果、非常に高品質な切削加工による仕上げが可能となったのです。
PREDUCTS DESKのモジュール ”Base Slider” が今週から新バージョンになりました。
— PREDUCTS (@preducts_inc) July 10, 2023
製造工程をアップデートし、高品質・高精度な仕上がりになりました。#PREDUCTShttps://t.co/UbwJzhUKNN pic.twitter.com/lnkV0BKXxj
この技術があれば、Headphone Adapterで長年課題になっていた点も解決できるのではないかと気づいたのです。そこから、切削加工による新たなヘッドフォン用マウント『Headphone Hanger』の開発が始まりました。
PREDUCTSらしい造形の追求
この開発にあたり、私たちはある挑戦をすることを決めました。それは“PREDUCTSらしい造形の追求”です。
これまでのプロダクトは、機能性や加工コストの観点から比較的シンプルな形状を採用することが多く、造形上での特徴を出せる余地があまり大きくありませんでした。
一方で今回は、切削加工が比較的造形の自由度が高い加工方法であること、そしてHeadphone Adapterという原型があることで完全新規設計よりは知見がある状態からはじめられることもあり、チャレンジがしやすい土壌が整っていました。
そうして”PREDUCTSらしい造形”を探るべく、私たちは設計を始めました。
とはいえ、これまでそうした”造形的ならしさ”を体系化・整理したことはなかったため、まずはとにかく手を動かしプロトタイプを作りながら、少しずつ理想的なかたちを探索していきます。
最初は全くもって納得できるものが生まれず苦労するのですが、一定以上数を重ねてくると「厚み」や「曲面」「角度」など、少しずつ”らしさ”を構成する要素が見えてくるように。それらの要素をミリ単位で変えながらプロトタイプの数を増やしていくと、徐々に自分たちの考える”らしさ”を帯びたものがいくつか現れてきました。
その上で、「ヘッドフォンを吊り下げる」という機能を十二分に満たす形状へと調整を重ねていきます。
数十のプロトタイプを重ね、徐々に「らしさ」という意味でも「機能」という意味でも納得のいく造形が見えてきた段階で、いよいよ切削加工での試作へ移行します。
単純に造形だけであれば3Dプリントで詰められますが、製品化・量産にあたっては加工方法に合わせた最適化が必要があるからです。
今回採用した切削加工の場合、造形が複雑になればなるほど、造形の中で使用する曲面の種類が増えれば増えるほど加工難易度や手間は上がっていきます。また3Dプリンタで出力する樹脂素材と切削で使用するアルミ素材では、表面の手触りやあたりといった仕上がりにも大きな差が生じます。
そういった量産に向けた条件を踏まえ、再び造形の見直しを重ねていきました。
「吊る」という単純だが奥深い役割
切削加工に伴う見直しの中で、特に大きく調整したのは「ヘッドフォンの“あたり”」でした。ヘッドフォンを吊り下げるという非常にシンプルな機能だからこそ、単に吊り下げられる"だけ”では、わざわざモジュールとして展開する必要性は薄れてしまいます。
ユーザーの方々が愛用するお気に入りのヘッドフォンを吊ることで「意匠的にも」「機能的にも」不満の一切出ないようなものを作る必要がありました。そのためには、ヘッドフォンにかける負担を最小限にするというのは非常に重要な機能です。
切削で最初に作った試作品は、全体の造形を優先するあまりヘッドバンドの部分にあたり(跡)が付いてしまいました。もちろんあたりといっても大きなものではないのですが、その負担は可能な限り小さくしたい。そのために、再度造形を見直していきました。
ここで再度3Dプリントに戻してプロトタイプを繰り返し、造形としても機能としてもしっかりと満足のいくものを再び模索。その成果を元に、再び切削加工での試作品をつくります。その結果が、造形としてはPREDUCTSらしさをしっかりと纏いつつも、バンドが当たる部分には丁寧にアールを組み込んだ現在の形です。
ただ、この形状での試作品ができたタイミングで、これを製品化するか否か、私たちは正直悩みました。複数の曲面を組みあわせた複雑な造形ゆえに、加工に相応の手間と時間がかかり、価格が当初想定よりもぐっと上がってしまったからです。
価格を抑えるべく「製造の手間を減らせる造形」を再度模索。複雑にならないようにしつつも、PREDUCTSらしい造形と機能面を満たせるものが作れないかと、時間を掛けて検討、プロトタイプも試作も幾度も重ねました。
ですが、どうしても「ヘッドフォンの負担軽減」という機能を満たすのが難しく。最終的に、値ははってしまうけれど、自分たちとして最大限こだわりを詰め込んだプロダクトとしてこのHeadphone Hangerを送り出すことを決めたのです。
バランスに優れた、切削の別解
ただ、その過程で思わぬ副産物が生まれました。それがBag Hangerです。
コストダウンに向けた試作を重ねる中、機能を満たすのは難しいものの、PREDUCTSらしさはありつつコストを落とせる造形というのをいくつか見いだすことができました。ヘッドフォンを吊るすという機能から考えると自信を持って提供できないものの、あたりが気にならないものを吊るすのであれば、コストと造形のバランスが非常にとれている。これはどこかで使えるのではないか……そう考える中で発見したのが「カバンを吊る」という用途でした。
オフィスなどに設置する場合には足下にカバンを吊るしたいという要望をいただくことも多く、これまでのニーズから考えても展開するのに良い選択肢の一つ。そこでコスト面とらしさのバランスを丁寧に詰めつつ、カバンを吊るための造形に調整。結果生まれたのがこのBag Hangerです。
Headphone Hangerをちょうど90度回転したような向きになっており、引きで見ると類似点が感じられる造形だと思います。ただ、細かく見ていくと角のアールなどをよりシンプルに仕上げており、コストを抑えつつも機能を満たす造形になっています。
別解とも言うべき、2つのハンガー
切削加工という技術を用いて、造形としても機能としても徹底的に突き詰めた「Headphone Hanger」。技術を深めたことで見えたコストと機能、造形のちょうど良いバランスを取った「Bag Hanger」。
用途は違えど、互いに"別解”のようなこれら2つのモジュール。もしあなたのデスクに活かせるシーンがあれば是非手に取ってみてください。