プロダクトの当事者だからこそ挑める、いい“ものづくり” —ミヤザキ マサキ

アウトドアメーカー『MIYAGEN Trail Engineering』の代表であり、PREDUCTSのデザインエンジニアでもあるミヤザキ マサキさん。

「アウトドア」と「ものづくり」を軸に活動し、2022年4月からは、アメリカを縦断する全長4200kmの長距離自然歩道・Pacific Crest Trail(以下、PCT*)の踏破にも挑んでいます。

今回は、そのPCTの最中にお時間をいただき、北米大陸のど真ん中とオンラインでインタビューを実施。ミヤザキさんの「いい仕事」の話を伺いました。

オンラインでインタビュー中のミヤザキさん
オンラインでインタビュー中のミヤザキさん

「アウトドア」と「ものづくり」という軸足

はじめに、折角PCT参加中にお時間をいただいたので、ミヤザキさんとアウトドアの関係について教えてください。

新卒の時から、公私ともでアウトドアにどっぷりと浸かってきいました。

学生時代からアウトドアにのめり込んでいて、いつかはアメリカ縦断や世界一周をしたいと考えていました。就職活動も前職の総合アウトドアメーカーしか受けておらず、応募した理由もアウトドアに関わる仕事で、社員がみんな休日に遊んでいて楽しそうだったから。入社面接で「3年以内には辞めて、アメリカのPCTへ縦断に行く」と公言し、これでダメであれば今は就職しなくてもいいやくらいに思っていましたね。

PCT中のミヤザキさん
PCTはメキシコからカナダまで8以上の山脈と山地を超える全長4200kmの自然歩道。6カ月で踏破する必要があり、単純計算1日23km以上歩くこととなる

アウトドアをそのまま仕事にしようと決めていたのでしょうか?

いえ、どちらかというと仕事にするのは「ものづくり」のイメージでした。父の影響もあって中高生くらいからものづくりが好きで。機械加工などで小遣いを稼いでいたり、工学系の資格もとっていたので、変に焦って就職先を探す必要もないと思っていたんです。

実際、前職ではアウトドア用品のプロダクトデザイナーとして働いていました。

「アウトドア」という意味でも「ものづくり」という意味でも、公私ともで親しんでいたんですね。

そうですね。前職は遊びと仕事がほぼ直結していて、仕事で作ったものを使って次にどこへ行くかを考えていたりしたし、遊ぶ中で思いついたものを仕事で作ったりしていました。

ものづくりという行為自体も楽しめていたので、お金をもらいながら遊んでるような感覚で。能動的に「こういうものをつくりたい」と提案し、自分が作りたいものを作っている感覚が強かったですね。

ミヤザキさんの本棚
ミヤザキさんの本棚。アウトドアとものづくりに関する本が並ぶ

そのなかで、なぜ独立を?

正直、仕事が楽しくてここに骨を埋めてもいいなという気持ちもあったくらいです。ただ、どうしても会社ではあるので、やれること/やれないことの線引きがあるといえばある。

例えば、僕はこれがいいと思うけど、会社としてはNoというものもあるんです。デザインの方向性の違いのようなものかもしれません。特に前職は多くの方に愛用いただくアウトドアブランドだったので、自動車で例えると「市販車」のようなものを作らなければいけませんでした。安心安全で壊れづらいものを、多くの人が手に取りやすい価格で届けることを考えなければいけない。

一方僕個人の好みは、もっと尖ったものでした。工学部で構造力学で学んでいたこともあり、市販車というより「F1マシン」のようなラボ的なものに関心があったんです。新たな技術を挑戦的に取り入れてみたり、特定用途に最適化するために少し高い素材を使ったり……。大多数が満足するわけではないかも知れないけれど、僕のように必要な人は間違いなくいるものです。

自分がユーザーとして求めるものと、会社で作れるものにギャップが生じていた。

だからこそ、独立して立ち上げたMIYAGEN Trail Engineeringは、「よく強く」「より軽い」道具をエンジニアリングによって作ろうという想いを込めて命名。トレイルを遠くまで歩くためのメーカーとして、まずはPCT踏破に必要となるギアをとにかく作り続けてきました。

試作品
試作品。バックパック、ウェアをはじめ25の試作品を持ってPCT踏破に挑んでいる

自分がプロダクトの当事者である必然性

独立と同時期にPREDUCTSにも参画しました。改めてその経緯を伺えますか?

退職した旨をSNSで発信したところ、声を掛けてもらった形です。僕自身、オフィスワークでデスクに関する不満は常々感じていたこと、MIYAGENをはじめるにあたってものが増え、デスク周りが大変なことになっていたので、願ったり叶ったりの仕事でした。

当時のPREDUCTSはデスクの試作品が完成し、量産に移ろうというタイミング。試作から量産への橋渡しをサポートしつつ、主に樹脂を用いたデスクモジュールの開発を手掛けることになりました。

モジュールは10個近いデザイン案を出し、僕が持っている3Dプリンターで出力。その中で使えそうなもののブラッシュアップを重ね製品化まで持っていきました。バージョン20くらいまで改良を重ねたと思います。このモジュールはPREDUCTSとして特許も取得しましたね。

初回のモジュール完成後も、次々と試作品を作っていたと伺いました。

ちょうどその頃に引越して、アトリエにPREUDCTS DESKのサンプルを置いたんですよ。自分が実際に使うと、「あ、こういうモジュールがあったらいいな」というアイデアがどんどん浮かんできて。勝手に次々とデザイン・試作を重ね、提案しまくっていました(笑)。

実物があることで、一気に開発がしやすくなった感覚がありましたね。すぐに検証できますし、なによりプロダクトの当事者になれる。まだ製品化できていないのですが、今デスク裏に付けているマグネットのモジュールとかはそのときに試作したものです。

マグネットモジュール(試作品)
手前で金尺、ノギスを止めているのがマグネットモジュール(試作品)

「プロダクトの当事者」というお話は、独立の理由とも繋がりますね。

そうですね、MIYAGEN Trail Engineeringのものづくりにも通底していると思います。例えば、今着ているウエアも試作品なんですが、とても強いウール素材を使っていて、PCTに参加している3カ月間ずっと着てるんですが、毛玉もできにくく全然破れないんです。

ただ、生地がめちゃくちゃ高い。僕がこれまで出会った中で一番高いぐらいで、商品化したら、シャツ1枚で2万くらいになると思います。普通のメーカーであれば開発段階で検討・試作すらしないような生地ですが、当事者だからこそ試そうと思えたし、その価値も検証できたと思っています。

MIYAGEN
MIYAGEN Trail Engineering

コストに見合うかの検証も、当事者だからこそできる。

今回のPCTを歩いて思ったのが、長距離ロングトレイルはやはり別世界ということでした。僕自身、経験はある方だと思っていましたが、その想像を超えるような体験ばかり。ものづくりもフィールド適したプロダクトを考えないといけません。

今回バックパックもPCTに向けて専用で試作したのですが、詰めが甘かったところがちょくちょく見えてきていて。今は作り直したいなと思っています。同じように、トレイル中に思いついた改良点や新しいプロダクトのアイデアはどんどん書き溜めていて、「こういう商品があったらいいな」が増え続けています。

メモを見せてくれるミヤザキさん
書きためているメモの一部

メーカー兼プロダクトデザイナーの仕事場

いまのお仕事の環境について教えてください。

今はアメリカの大地を歩きながらなので「スマホのみで頑張る」という感じですが、家のアトリエはPCTに出発する時点でベストな状態に仕上げています。PREUDCTS DESK(METRO)があり、左側にはミシンが、右側には作業台がある。ラボのような空間にしていて、背面の収納とかも使いやすいようにこだわって組んでいます。

ただ、PREDUCTSのデスクもどんどん進化しているので、帰ったら変えたいところが多々生まれていますね。例えば、今はキャスターをつけて移動できるじゃないですか。帰ったら真っ先にそれを実装しようと思っています。

アトリエの全景

自由に動けることは、どのような影響を与えそうですか?

カスタマイズ性が高ければ、作業内容に最適化した環境を構築できるし、環境が変わったときにも合わせられるのでいいなと思っています。

例えば、商品撮影をするには絶対動く方が便利なんですよ。今でも作業台にはキャスターがついているのですが、デスクも動けばかなり自由度が高まるなと思っています。

PCTを歩きながらも、PREDUCTSの仕事をされていると伺いました。

海外の工場とやりとりし金型の微修正を進めています。工場から日本にいるメンバーのもとに試作品が送られ、日本のメンバーが試したフィードバックを僕が受け取り、それを工場側へ製造の言語で打ち返すということをしています。

はまり具合や柔らかさといった、細かな部分なんですが、テキストで説明してもらったり動画を撮ってもらったりしながら、改善点を検討し、成形素材を変えて対応するか、金型を修正するか……などを考えながら工場へ戻し、再度サンプルを作ってもらい……というのを重ねています。今、金型の第2段ができサンプルが仕上がったところです。

実物がない環境でも、進められるものなんですね。

これまでもほぼリモートのみでやりとりをしてきたので、大きくは変わらないですね。本音を言えば、実物を見ながらフィードバックをしたいですし、工場とものをみながら直接会話した方が認識のズレはなくなるだろうな……という気持ちもあります。ただ、リモートこそのメリットもあるので。普段以上に神経は使いますが、挑戦しているという感覚です。

HEADPHONE ADAPTER
ミヤザキさんが設計した「HEADPHONE ADAPTER」

いい道具が、いい仕事を呼び起こす

PREDUCTSは、『「いい仕事」を生み出す道具のメーカー』という言葉を掲げています。ミヤザキさんが考える「いい仕事」を教えてください。

大きく二つあると思っています。

一つは、人を喜ばせられていること。喜びの切り口は様々で、デザインでいえば、所有欲を満たしたり、スタイリッシュなデザインで感動を与えたり、驚くほどの使いやすさや利便性が宿っていたり……。そんな感覚を提供してくれるものは良い仕事だと思います。

ライカはその王道だと思いますね。見た目はもちろん、滑らかなエッジ、シャープな部分と滑らかな部分の寒暖差、触感、撮ったときの喜び……そういうの含めて、「ものづくりって人を喜ばせることだな」と感じさせてくれるものだなと。

もう一つは、作り手である自分自身が満足できる仕事。誰か他者に評価されてなくても、自分が「これはいい仕事をした」と思えるのは大事だと思っています。例えば、このホイッスルは僕にとっては間違いなくそれですね。3Dプリントしたホイッスルなのですが、重量2gにも関わらずとても強い音を出せる。先ほどお話ししたウェアも同様です。めちゃめちゃ高いので売れるかは分からないですが、いいものをつくれたと実感しています。

ホイッスルとウェアの試作品
左:超軽量ホイッスルの試作品/右:高耐久ウール素材を用いたウェアの試作品

では、いい仕事を生む道具とはどのようなものだと思われますか?

そうですね……それこそ、“いい仕事がなされた道具”ではないでしょうか。

個人的に分かりやすいのはピンセットです。ピンセットって、粗雑なものだと全然小さなものがつかめないんですよ。でも、“いい仕事”がなされた緻密なものであれば、どれだけ小さなものでもつかめたりする。

いい道具がいい仕事を生む、いい仕事を呼び起こすものこそいい道具なんです。

PREDUCTSのデスクは、机上でノイズになる要素を隠すのが特徴ですが、粗雑な道具はノイズが多いんですよね。例えば、もし3Dプリンターが成形不良を頻発していたら、それに気を取られていい仕事からは遠のいてしまう。逆に、意図通りの成形を精度高くできたなら、理想のものづくりへ最短距離でたどり着ける。

その意味では、ノイズの少なさも、いい仕事を生む上では大事な要素かもしれませんね。

ありがとうございました。

アトリエに置かれたPREDUCTS DESK