没頭し続けた日々のすべてが、成長機会だった — Yoshihito Kato

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を“シゴト”と呼び、“シゴト観”とその背景を紐解いていきます。

時間が経つことを忘れてしまうくらいの没頭。

そこにある熱量は、ときに人の価値観、人生をも変える——。

Film Director/Art DirectorのYoshihito Katoさんは、そんな可能性を身をもって提示してくれる人物です。

ダンスへの熱意から、独学でグラフィック、Web、アパレルなどのデザインを体得。アパレルショップのオーナーを経て、今度は映像制作を体得し、映像ディレクターへ転身。現在に至るという、自らの意志で道を切り開き続けてきました。

「没頭し続けた日々のすべてが、成長機会だった」と語るYoshihito Katoさんの道筋にあった、没頭し続けた価値を訊きました。

ダンスが教えてくれた没頭

Yoshihitoさんとダンスの出会いを教えてください。

あくまで単なる趣味なんです。10代後半の頃、ストリートダンスにのめり込んでいて。それまで何かに長く熱中し続けるという経験がなかったのですが、ダンスのことだけは四六時中考えていられた。大会で優勝したいという目標もあってか、アメリカのダンサーのビデオを擦り切れるまで見たり、家で練習し過ぎて壁に穴開けてしまったりしていました。

そこからなぜグラフィックなどの“ものづくり”へ関心が移ったのでしょうか。

きっかけは、チームのTシャツや服をつくりはじめたことです。ストリートダンスには「ダンスバトル」と「ショーケース」というジャンルがあるのですが、特に後者は衣装にこだわる人が多い。加えて、当時は「名前を売る」には目立つことも大事という風潮もあって。自然と服であったり、ダンスの活動で必要なデザイン作業に関心を持つようになりました。

そこで人生ではじめてパソコンを手に入れ、デザインソフトを買い、手探りではじめてみたんです。今考えると効率が悪いやり方ですが、誰に習うこともなく見よう見まねで。自分で調べ、試すなかで体得していきました。その試行錯誤の過程や、少しずつできるようになっていく感覚に、楽しさを覚えていたのかもしれません。

デスクで作業するYoshihitoさん
デスク上は必要最低限のもののみ。以前はCG製作用でペンタブレットなども活用していたが、現在は最もミニマルなスタイルに辿り着いたという

そこからデザインのお仕事を?

いえ、アパレルに軸足を置き自分でショップを持つようになりました。

これも少し違う視点ではあるものの、試行錯誤の過程からみえてきたものなんです。パソコンを手に入れ、色々と調べたりする中で、服を仕入れてオンラインで売る…といったことに出会ったんです。そこで、試しにと販売するWebサイトを制作し、問屋街などで服を買い込み販売してみたところ、少しずつ利益が出るようになってきた。

その規模がある程度になってきた時に、ダンス関連のアパレルをやっていたこともあって、ショップを始めてみたんです。20代前半の頃ですね。

ダンスきっかけで手に入れたパソコンが、思わぬ可能性を生んだんですね。

ここまでのことは、全てそうなんです。自分はショップをやるまで職を転々としいて、やりたいこともないし続かない…ような状態でした。最初にお話した趣味とも同様で、「何事も続かない人間」だった。

その中で唯一、ダンスに関わることだけは長く続けられたんです。ダンスと出会ってはじめて「やりたいことが明確にあると、続けられるんだ」という経験ができた。ショップも「ダンサーが集まるコミュニティの場所にしたい」という思いもあって、店舗をわざわざつくったという意図もありました。

デザインもアパレルもショップも、ダンスが起点だったからこそ生まれた。

自分はそう考えています。とはいえ、今振り返ると特にショップは勢いではじめたとにかく甘い計画でした。事業という意味では難しく、ショップは数年後には閉店。ただ、経験という意味では、この失敗が今の自分に大きく影響しています。

PC MountにマウントされたPC
モジュール「PC Mount」で天板裏にマウントされたフルスペックのPC。映像編集やCGグラフィック制作の仕事を支えている

没頭するからこそ、映像と向き合った

そこからなぜ映像のお仕事へ?

これもきっかけはダンスです。ショップをやっていた頃に、仲間のダンスムービーを撮ったりしていて。その評判が良く、少しずつ映像を作るようになっていったんです。

最初は人に褒められたりするのが嬉しかったくらいなんですが、気がつけば向き合えば向き合うほど自分の作品が進化していく、映像がうまくなっていくのが感じられて。どんどんのめり込んでいきました。

その中で、たまたまネットに上げた動画が評判が良くて。音楽レーベルからMVを作ってくれないかと相談がきたんです。そこではじめて「仕事としての映像」を経験しました。

いきなり大きな仕事ですね。そこから仕事として広がったのでしょうか。

いえ、一度全部お断りしました。

幸いなことに、その案件自体はよい結果に結びつけられたのですが、仕事をする中では自分の技術的な不足や至らなさを痛感することがいくつもありました。そのときに思い出したのが、勢いではじめて苦労したショップでの経験だったんです。

このままの勢いだけで仕事をやり続けてしまうと、ショップの時と同じような苦労や失敗をするのではないか。そう思い、他にも来ていた相談を全て一度お断りさせてもらいました。

そして、しばらくはひたすら自分の技術を深めることに専念したんです。

スタンディングで製作作業をするYoshihitoさん
DESK - POLAR / FlexiSpot E8を活用されているYoshihito Katoさん。スタンディングデスクにし立って作業をすることで、気分転換ができたり発想が閃くことがあるという。デスクワークでも身体性を重視している

それだけ、“ちゃんと向き合いたい”とも思えた?

そうかもしれません。

映像は撮影では外出しますが、基本的には自分の家で黙々と作業をできます。加えて、当時は製作プロセスの全てをワンオペでやっていたので、自己完結できていた。すると、一人で突き詰め続けられるんです。

何度でも撮り直しもできますし、AfterEffectsをいじり倒したり、素材をこねくり回したりも好きなだけできる。その過程自体がすごく楽しかった感覚がありました。

そんなことを数カ月した後、知人のグラフィックデザイナーからの相談をきっかけに再び仕事としてやりはじめました。案件としては、建設会社の採用関連の映像など堅いものだったんですが、むしろそれが良くて。堅実に、ちゃんと作る経験を積めました。

以降はそういった堅めの仕事も、ダンス畑に通ずる、アーティストのMVやファッション関係のようなエンタメ関係の仕事も、ジャンル問わずやってきました。自分にとってはどちらも未知の分野や文化に触れられるという意味で面白かったんです。良いものをつくりたいというモチベーションで向き合ってきたので、「良い仕事」になりそうであれば、内容は問題なかったですね。

引き出しからペンを取り出すYoshihito Katoさん
モジュール「Drawer Mini」は2つ装着している。左側のDrawerは筆記用具やメモリなどのガジェットを格納、右側のDrawerはMacBookやiPadを充電するステーションとして使用している

映像にも没頭されていったんですね。

なにより次々と新たな経験をできること自体を楽しんでいました。

どんなスキルでも、最初体得するまでは大変ですが、一定の壁を越えると気持ちよさに変わってくるとおもうんです。「お、すごいものができたぞ」みたいな。それと出会うと、「もっと試したい」「次はこれをやってみよう」という気持ちになる。その積み重ねで来ているような感覚です。

案件の幅もそうですし、実写ではじめた映像を、モーショングラフィック、3DCGと展開できてきたのも、それ自体が楽しかったから。できる領域は今後も増やしていきたいですし、もし時間が無限にあるならエンジニアリングのスキルとかも身につけたいな…とか。やりたいことは本当に次々と出てきます。

デスク周りの植物たち
作業に没頭していると、気がつけば時間が経っていることが多いというYoshihito Katoさん。植物をデスク周りに置くのは、「植物の元気がなくなっていたら、仕事を休んだ方がいいサイン」というバロメーターの意図もあるという。ちなみに、植物は「タフなもの」を集めているそうだ

「つくりたいと思えるか」を最優先に

やりたいことの中では、どう優先順位をつけていますか?

仕事に活かす…という観点もありますが、一番は「つくりたいと思えるか」を大事にしています。試したことはないけど気になっていた表現や、今後取り組んで行きたいものなどを意図的にやっていますね。

その意味では、パーソナルワークの重要度があがっている感じがします。クライアントワークの場合、もちろん新しいチャレンジは日々あるのですが、未熟な技術を試す…とかはすべきでない場面も少なくありません。だからこそ、自分でいくらでも試行錯誤できるパーソナルワークは重要だなと。

あとは、「手を動かす機会」という意味でもですね。最近は忙しさや案件規模などの理由で、チームで動くことが増えてきました。すると、自分自身が手を動かす機会は減っていく。そこをパーソナルワークでカバーしたいという側面もあります。

キャビネットに収納されたカメラ機材
仕事の領域やスキルセットが変わると作業環境も変わるため、デスク周りは都度カスタマイズするという。曰く、「必要なものは徐々に変化していくからこそ、変化に対応できるモジュール式のプロダクトを選びたい」

パーソナルワークが、“没頭する”という意味でも大事だと。

そうですね。もちろん、新たな技術や表現を身につけクライアントワークへ活かすといった意図もあるのですが、それだけではないなと。自分自身、年齢を重ねても映像を続けたいという気持ちもあるので、半ば趣味のような感じかも知れません。

没頭し続けた日々のすべてが、成長機会だった

ライフワークのようなものなんですね。

自分は、映像の仕事を通して成長させてもらったような感覚があるんです。何をやっても続かない10代から振り返ると、ダンスに出会って熱中することを知り、ショップをやって失敗を知り、それを糧に映像と向き合ったことで、少しずついろんなことを学んでこれた。

映像の技術はもちろんですが、仕事のやり方、向き合い方に関してもいろんな方々から吸収しながら今に至っている。「やりたい」という熱意は大事ですが、そこからもう一歩踏み込んで仕事をしてきました。

その積み重ねがあったから、成長できたのではないかと思うんです。映像作家という意味でも、人としても。

どうしてそこまで変化できたと思いますか?分かってはいても「変われない」という人もいると思います。

やっぱり目標があるからでしょうか。ダンスだったら大会で優勝したい、もっと上手くなりたいといった目標があって、映像では「すごい作品を作れるようになりたい」と思い続けている。

もちろん時間はかかりますが、真剣に、丁寧にやっていけば、見えないものが見えてきたり、別の領域へも目を向けられるようになったりしてきした。だからこそ、やり続けられているのかなと思います。

ありがとうございました。

部屋の全体像

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