残すべきものを見定めるまなざし — 生産技術エンジニア・Yoshito Nakazato

2026-06-24INTERVIEW

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。「仕事」とは、単に"生活のために稼ぐこと"ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を"シゴト"と呼び、"シゴト観"とその背景を紐解いていきます。

正面から見ると、そのデスクは非常にシンプルだ。

正面にはラップトップPCとモニターがアームで据え付けられ、DASHBOARDの上にスピーカーが鎮座する。モニターの上にはWebカメラとバーライトがあり、机上にはキーボードとマウスが置かれている。

だが、裏に回ると、その印象がガラッと変わる。

モニターアームの支柱に沿って走る黒いケーブルは、1本ずつ巻きクセを取られ、同じ曲率で並走している。驚くべきはすべてのケーブルがそうなっている点だ。見られることを想定しているかのように、すべての配線が整然と並んでいる。

加えて、丁寧に観察してみると、一見シンプルに見えたセットアップには、驚くほどのカスタマイズが施されていることが見えてくる。

バーライトもWebカメラも、元の外装が剥がされ、自身で設計した3Dプリントの筐体におさめられている。DASHBOARDの脚やSystem Tray Saucerを収めるガイド、スピーカースタンド、天板裏に固定されたNintendo SwitchのDockやBlu-rayドライブもすべて、3Dプリントでカスタマイズされている。

デスクの主、中里さんは人工衛星スタートアップで生産技術エンジニアとして働いている人物。自動車業界で約10年、生産設備の機械設計を手がけたのち、宇宙業界に転じ、現在は人工衛星の量産工程の設計に携わっているという。人工衛星には無駄も装飾もない。ミッションに必要なものだけで仕上げる美しさは、このデスクにも貫かれている。

何を残し、何を削るか。残すべきものを見定めるそのまなざしと、シゴト観を伺った。

衛星を「量産」するという仕事

はじめに、現在のお仕事について教えてください。

人工衛星の開発・運用を手がける企業で、衛星の量産体制構築に向けた生産技術・工程設計を担っています。設計図をもとに、組立に必要な環境を整え、作業フローをつくる仕事ですね。

人工衛星を量産する仕事があるのですね。

従来の人工衛星は基本的にワンオフで、1つ1つ仕様が異なっていました。

ですが最近では、複数の衛星を連携させて運用するケースが増えてきていて、一定の仕様で衛星を継続的に製造できる体制づくりが求められるようになっています。

衛星は、打ち上げ時の振動や加速度、軌道上での熱や放射線といった過酷な環境に耐える必要があります。それらを空間・質量制約の中で成立させるため、組み立てやすさが後回しになることも多くなります。そこから「どう組み立てるか」を考え、量産を見据えて手戻りなく再現性の高い工程をつくることが私の役割です。

熟練者の組み立てを観察してポイントを読み取り、それをドキュメントに落とし込んだり、現場の意見を設計にフィードバックして作りやすい構造に変えていく。いわゆるコンカレントエンジニアリングと呼ばれるものも、工程設計や治具設計と並行しながらやっています。

デスク背面の収納棚。3Dプリンター「Bambu Lab A1 mini」が鎮座する

分解好きの少年が、自動車から宇宙へ

現在のお仕事に至るまでを教えてください。元々宇宙や機械がお好きだったのでしょうか?

子どもの頃から、「ものがどういう構造になっているのか」にすごく興味がありました。ゲームボーイを分解したり、DIYや難解な折り紙にも熱中していて、構造を理解しながら手を動かすのが好きでしたね。

最近折ったという折り鶴(提供写真

そこから、ロボコンをやりたいと思って高専へ進学。課題や制約の中でアイデアを出して競い合うのがとにかく楽しく、機械設計や加工、ロボット製作に打ち込みました。

卒業後は、自動車の生産設備を扱う会社に就職しました。約3万点もの部品で構成されている車という民生量産品の開発、製造過程に興味があったからです。車載半導体の製造装置のような精密機器から、車両搬送のような大規模設備まで、いろいろな生産設備の設計・試作に携わり、10年近くこの仕事をしていました。

そこからなぜ宇宙分野へ?

当時、ある程度仕事に慣れた感覚もあり、新しい環境に身を置いて、自社でプロダクトそのものを設計・製造している企業へ移りたいと考えていました。

その頃SNSで、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の軌道上での展開アニメーションCGを目にしました。打ち上げ時のコンパクトな姿からは想像もつかないほど大きく展開する構造に魅了され、宇宙機に興味が湧いてきたんです。

衛星は、極めて厳しい制約条件のもとで設計されるもの。限られた質量や容積の中で機能を成立させるため、一切の無駄や装飾的な要素がない。その設計思想に強く惹かれました。

無重力下ではどんな構造が最適になるのか、衛星の内部はどうなっているのか気になり始め、そんな中、出会ったのが衛星を開発している会社でした。

自動車業界での経験は活きましたか。

とても活きています。元々は設計職で応募したのですが、自動車業界で培った、配線ルーティング設計を含めたこれまでのものづくりの経験を評価いただき、さらに、選考時にデスク裏の配線や個人制作のポートフォリオを見せたところ、「衛星の構造理解を兼ねてまずは組立からやってみないか」と声をかけていただきました。

最初は製造を担うAIT(Assembly, Integration, Testing)のロールで入り、衛星の組立や環境試験、ロケットの打ち上げ施設でのオペレーションなどを経て、構造や展開機構の設計・試作などを経験。試作のために3Dプリンターを導入して、思いついたものをどんどん形にしていました。その後、生産技術として現在の仕事につきました。

宇宙業界ではまだ、量産前提の生産技術の知見を持っている人は多くありません。業界が違う分、新しく学ぶ要素も多いのですが、これまでの経験が存分に活きる環境でもあります。

デスク背面には、有孔ボード。工具を引っ掛けるパーツもオリジナルで設計している

ケーブルの「巻き方」までこだわり抜く

続けてワークスペースについても教えてください。なんと言っても、まず目を引くのは配線です。これはやはりお仕事での経験の延長なのでしょうか。

そうですね。配線はあくまで「必要なもの」。なので、隠しはしないが視界には極力入れない前提で設計しました。ただし、必要な長さや端子のコンパクトさにはこだわっていて。設備設計における配線ルーティングの経験が活きています。

自動車業界にいた頃から、配線の取り回しや見せ方にはかなり敏感でした。会社の自分のデスク周りの配線にはずっとこだわっていて。というのも、設備設計では配線までかなり丁寧に設計するのに、デスクの配線は気にしない人が多かったんです。自分はそれが気になって仕方がなかったので、席替えのたびに周りの席の配線も一緒に整えていました(笑)。

バーライト、Webカメラともオリジナルで筐体を設計。配線にもこだわりが感じられる

配線のクセもきれいにとってますよね?

はい、届いた時の巻きクセはもちろんとります。その後、欲しい形にクセ付けしてから配線していますね。板金のベンディングと同じで、指で3点支持して細かい多角形を描くように仕上げています。

そして、よく見ると3Dプリントでカスタムされた機材が非常に多く驚きました。デスクに設置されているWebカメラやバーライト、Nintendo SwitchのDockまで筐体が作り直されています。

好みのデザインのものがないプロダクトは、外装を作り変えています。既製品の組み合わせだと、自分にとって不要な機能や装飾がどうしても出てくるので、それをそぎ落とすように筐体を再設計して作っています。

仕事では、コストや工数に見合わない細部へのこだわりは切り捨てる必要がありますが、自身のデスク環境ではそれを存分に突き詰められます。うまく仕事とバランスをとっているような側面もありますね。

もちろん、このスピーカーのように製品としての美しさで選んでいるものは、そのまま使ったりスタンドを付けて意匠を活かしたりもしています。

3Dプリンターは以前から使われていたのでしょうか。

10年ほど前、会社で導入されたものを触ったのが最初でした。まだ自動車業界にいた頃です。

それまでは溶接や切削での加工が中心だったので、形状に制約があったり時間やコストが重かったりしたものが、好きな形で非常に低コストに実現できるので、とても重宝しました。

個人で手にしたのはここ数年です。手が出しやすい価格帯のものが増えてきた中、Bambu Labのプリンターを買ってから一気に楽しくなりました。この精度のものが3万円ほどで手に入るのは本当にすごいことだと思います。

そこからモノを買う時の判断基準に「まずプリンターで作れるかどうか」という軸が加わりました。作れそうだと思ったら買わなくなりましたね。購入する場合も「カメラを買う」というより「カメラという機能を買う」というものも増えました。

PREDUCTS DASHBOARDも導入いただいています。こちらもかなり3Dプリントでカスタマイズされていますね。

脚とSystem Tray Saucerを入れる支柱を自作しています。

脚は、高さを55mmにしたかったんです。画面の高さとデスクとの隙間の比率を揃えようとすると55mmだったので。Saucerは「M」と「S」を1つずつ取り付けたかったのですが、System Tray for DASHBOARDではできないため、自作の支柱を介して設置しています。

支柱は3本あるんですが、いずれも形が微妙に異なります。荷重点も踏まえ、どうすれば必要十分な剛性で最小の構造で済むかを考えて設計しました。

どのアイテムも導入前の検討をかなり入念にするので、「やっぱり違った」と思うものがほぼありません。コロナ禍に入ってからデスク環境に凝り始めましたが、そこから買ったものは長く使っているものが多いです。

デスクの横には趣味の植物の棚も。こちらも3Dプリンターでカスタマイズされている

制約の中で絞り出したものを、形にして残す

ここまでのお話を振り返ると、お仕事で得られた経験や価値観は、ワークスペースにも反映されているように感じました。

そうですね、特に「制約の中でアイデアを絞り出すこと」を重視していて、それ自体が楽しいです。

衛星のように、限られた質量、限られたコスト、限られた時間。そのなかで「何を残し、何を削るか」を突き詰めて形にする。仕事もデスクも、根っこは同じです。制約があるからこそ考えられることがあると思っています。

あとは、それを再現性のある形で残すことも、とても大事にしています。

仕事では、暗黙知だったものを自分が解釈して「こういうことではないか」と1枚にまとめてアウトプットしたり、形式知化するのが大事な役割となっています。これは、新しい分野での仕事だからこそ価値を感じますし、自分が関わったことを目に見える形で残せるという意味でも充足感があります。

そういう意味では、特許も自分にとって大事なアウトプットの1つです。機密情報を扱う企業の中でも、独自の技術アイデアを実名で残せる数少ない手段なので。これまで所属した企業で、機構に関する特許も数件、出願しています。常に何かいいアイデアがないか考えるいい原動力になっています。

デスクの写真をSNSに上げたりするのも、根底は同じかもしれません。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

仕事としては、今のミッションである衛星の量産体制を実現すること。量産を見据えた工程設計や治具設計、設計改善のフィードバック……といった役割をしっかりと全うしたいです。

個人としては、デスク環境の改善そのものが、ライフワークになっていますので、これからも続けていきつつ、最適化の対象をもっと広げたいと考えています。書斎から住環境全体へ。理想の終の棲家をつくるのが、長期的な目標ですね。

ありがとうございました。

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