部屋が、自分の美意識を研ぎ澄ませる — YUU IWASA

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を“シゴト”と呼び、“シゴト観”とその背景を紐解いていきます。

誰しも、自分が“良い”と思えるものに囲まれたいはず…。

そんなこだわりを、意図して突き詰める人物がいます。イラストレーター・コンセプトアーティストのYUU IWASAさん。

デスクはもちろん、家具、小物、照明、光の配色、配置に至るまで…。仕事部屋にあるあらゆる要素のこだわりを丁寧に語るIWASAさん。ただ、そのこだわりは、単なる趣味ではなく「自分の美意識を効かせた環境に身を置くことが重要だから」という明確な“意図”があるといいます。

プロトタイプパートナーとして共に「L型デスク」も開発したIWASAさんから、「“美意識”を育む部屋」ができるまでを聞きました。

一貫して志した、ゲームの仕事

IWASAさんはいつ頃から今のお仕事を?

社会人になって以来、ずっとです。子どもの頃からゲームと絵を描くことが好きで、小学校の文集に「将来の夢はゲームのイラストレーター」と書いていたくらい。その想いのまま、美術系の学校を経てスクウェア・エニックスに入社。以後、ゲームのコンセプトアートに携わるようになりました。

先輩に優れたアーティストがたくさんいらっしゃり、在籍中はとても多くのことを学ばせていただきました。求められるクオリティは高く大変でしたが、とても充実した日々でしたね。私は特に背景のコンセプトアートを担当させていただきました。

ただ兼ねてから、背景のコンセプトアートだけでなくキャラクターのイラストなどのお仕事もしてみたいという想いがあり、ちょうど入社10年目に独立。以降フリーランスとして活動しています。

独立後は、どのようなお仕事を?

基本は前職で経験のあった背景のコンセプトアートを中心にしつつ、徐々にキャラクターのイラストなども並行して手掛けるようになっていきました。機会があればアートディレクションもやらせていただいてます。

左:StreamDeck/右:Drawer Miniの中

これまでを振り返り、ご自身の転機になったお仕事があれば教えてください。

『Fate/Grand Order』というゲームのイラストです。ゲーム内で人気の男性キャラクターを描いたのですが、想像以上にたくさんの反応をいただけて驚きました。男性を描くのは好きでよくラクガキはしていたのですが、需要がないと思い、ほとんど発表していなかったので…。

もちろん、この時にいただけた反応はFateというコンテンツとキャラクターの人気があってのものです。それでも自分の描く男性キャラクターがファンの方々に受け入れてもらえたことが嬉しかったですね。以後、これがきっかけとなり仕事の幅が広がりました。

同時に、自分としても感覚的に“こういうのを描くとしっくりくる”と気付くことができたんです。ゲーム系コンテンツはトレンドの変化が目まぐるしい。次々に生み出されるクリエイティブからの学びも多いのですが、それに目移りして悩んでしまうことも多々ありました。新人だった頃に「何でも吸収して何でも描けるようになりなさい」と教わってきたので、その影響も少なからずあると思います。

ただ、この仕事をきっかけに、自信を持って「自分が心の底から好きと思えるものを描こう」と思えたんです。

IWASAさんによる、『Fate/Grand Order』のファンアート

美意識が効かない苦しさ

それ以降、本来やりたかった方向にフォーカスされてきたのですね。

総論で言えばそうかもしれませんが、途中幾度も思い悩んだ時期もありました。自分がやりたい方向性や描きたいものはクリアなものの、やはり世の中のトレンドと自分の描いているものとのギャップが気になってしまうんです。

社会の潮流についていかなければ……という焦燥感があり、トレンドを意識して描いてみたりもしました。ただ、どうしても違和感が拭えず、結局は自分がしっくりくる表現に戻ってしまう。そんなことをずっと繰り返してしまっていましたね。

その違和感をもう少し詳しく伺えますか?

そうですね……自分の美意識の外側のことまでやろうとしている感覚でしょうか。言い換えるなら、善し悪しの判断に自信が持てない。他の方がやると素敵に見えるのに、自分がやると上手くいかない。この壁にはその後幾度もぶつかりました。

その壁はいかに乗り越えられたのでしょうか。

それが、仕事環境を整えることだったんです。

というのも、自分の今の部屋は「自分の好きなものに囲まれる」ことを重視して作りました。当たり前のことのように聞こえるかも知れませんが、自分の眼に映るもの、自分を取り巻く環境が自身の美意識を形作っている、そう強く実感しているからです。

以前、家族に「好きなものを見失ったり、目移りしてしまうのは、“環境”にも影響されているんじゃないか」と言われて、ハッとしたことがありました。それ以降、自分のワークスペースだけは「自分の好きなものに囲まれた空間」に作り直したんです。

自身の価値観を反映した空間をつくる上で、特に重視している点はありますか?

一番こだわっているのはライティングです。

仕事を通じて学んだことなのですが、デザインがどんなに優れていても、ライティング次第では台無しになってしまう。逆を言えば、平凡なデザインでもライティング次第で魅力的に演出できるんです。

空間のなかでリズムが生まれるように、光の方向や拡散の仕方などもふまえて照明を配置しました。その際、仕事と同じように簡単なコンセプトアートを描き、それをブラッシュアップしながらイメージする空間の解像度を上げていきました。

お部屋のコンセプトアートも描かれるんですね。

はい、インテリアを考える際はいつもコンセプトアートを描いて確認しています。家具の大きさや色などは、目測を誤ると悲しいので…。

IWASAさんが描いた間取りのレイアウト

仕事と趣味の両立に不可欠だったL型

PREDUCTS DESKとはどのように出会われたのでしょうか。

最初はPREDUCTS創業者である安藤さんのnoteだったと思います。というのも、もともとデスク環境はそれなりにこだわっていたのですが、どうやってもケーブルが綺麗にまとまらず途方に暮れていたんです。

そんな中、「ケーブル嫌いのためのデスク周りをスッキリさせるテクニック」というnoteに出会いました。ただ、DIYで色々と試してみたものの、デスクの天板裏にネジが上手く刺さらなかったりして。当時は、結局断念してしまいました。

最近ハマっているという格闘ゲーム用のアーケードコントローラー

その後、程なくしてPREDUCTS DESKが発表されたんです。見た瞬間「これだ!」と思いました。素材や質感が好みだったのはもちろん、DIY無しでデスク裏に様々なものを吊れてケーブルを綺麗にまとめられるので、理想に近いと感じましたね。

後日、現物が見たかったので、白金で開催された展示(注:REFRAME 未来をプロトタイプするプロダクト展)に足を運びました。その際、会場にいらした安藤さんとお話しする中で、プロトタイプパートナーとしてL型デスクの開発にご一緒させていただくことになりました。

L型は標準では展開していないモデルです。なぜIWASAさんにはL型が必要だったのでしょうか。

仕事と趣味が両立するデスクを作りたかったからです。

私はPCでFPSゲームを良くプレイするのですが、その上では「マウスを広く使えるスペース」と「仕事用とは別のゲーミング用ディスプレイ」が必須で。以前は横長のデスクの手前にサイドテーブルを設置してマウスを置いていたんですが、L型なら1台で完結できるし、安定性も高い。

部屋に仕事とゲームそれぞれの専用スペースを設置する余裕は無いですし、仕事中もゲーム中も友人とDiscordで通話していることが多いので、個人的には両立ができるこの形が理想だと考えていました。

大型のマウスパッドがL型部分を活かして設置されている。マウスを大きく動かす動作にも難なく対応できるサイズだ

寸法を決めるにあたっては、まず部屋の見取り図を描いてサイズ感にアタリを付けました。横幅はとても悩んだのですが、広さを最大限とれる160cmを採用。これにより左右どちらにもPCのマウントが可能となり、大型のペンタブや液晶タブレットを設置しても余裕ができました。

Lの出っ張り部分は当初40〜45cm角くらいを想定していたんですが、マウスパッドで一面埋まると見た目が窮屈かもしれない…と考え、最終的には55cm角で仕上げてもらいました。これは実際設置してみて「狙い通りだな」と感じています。

現在は、どのようなアイテムを設置されていますか?

2台のディスプレイにキーボード、マウス。ペンタブに、マイク、ショートカット用のStreamDeck、音量調整用のオーディオアンプ、格闘ゲーム用のアーケードコントローラー、スピーカー……。あとはデスク裏面にNintendo Switch、ゲームパッドなどをマウントしています。

裏面には、Drawer Mini、PC Mount、メッシュケーブルホルダー、Tray、ガジェットマウントなどが設置されている。ケーブルも丁寧に取り回されており、L型の広いスペースに様々なものを設置しつつも、スッキリとまとめられている

デスクで表現する、「自分らしさ」

部屋・デスクとご自身の好みを反映し、働き心地はいかがですか?

改めて、自分の好きなものに囲まれた空間にいることで「自分らしさ」を再確認することができると感じています。

今でも、トレンドやクライアントからの要望などで自分らしさを考え直してしまうこともあります。ただ、自分の美意識はそう簡単には変えられないんだということを、この部屋・デスクが思い出させてくれますし、「今ここ」に集中するしかないとある種諦めさせてくれる。

その積み重ねが、逆説的に、自分にしか出来ない表現や世界観を形作ってくれているとも思っています。

ありがとうございました。

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