Behind the Scene:キーレンチホルダー

2024-02-21FEATURED PRODUCTS

こんにちは、PREDUCTSの安藤です。

PREDUCTS DESKには「キーレンチホルダー」というアイテムが付属しています。

このキーレンチホルダーは、デスクの組み立てやモジュールの設置等に必要となる、2本のキーレンチ(アーレンキー、六角レンチとも呼ばれるもの)を収納し、マグネットでデスクの各所に固定できるようにするもの。

実はこのキーレンチホルダー、PREDUCTS DESK発売の数カ月後から付属しはじめ、二度の改良を経て、2024年2月に第3世代へとアップデートしました。

私たちはなぜ、このキーレンチホルダーを改良し続けているのか。第3世代へアップデートしたこの機に、これまでの歴史とこのツールに込めた思いをお伝えします。

左から、第1世代、第2世代、第3世代。

キーレンチホルダー誕生のきっかけ

きっかけは、PREDUCTSを立ち上げて間もない頃、デスクをご購入いただいた方から寄せられた「キーレンチをデスクに固定しておきたい」という声でした。

組み立て式の家具にはキーレンチが付属していることが多いですが、組み立てた後は所在がなく気づけばどこかへ行ってしまう。

PREDUCTS DESKは「DESK MODULAR SYSTEM®」で都度カスタマイズをしながら使うため、キーレンチを活用する機会が多いプロダクトです。

もっと身近なところに置いておけるように、簡易的な治具のようなものをつくれないか。そこからキーレンチホルダーの旅は始まりました。

第1世代:3Dプリントによる少量生産

私がスケッチしたアイデアを元に、樹脂成型に長けたプロダクトエンジニアのミヤザキさんがモデリング。キーレンチの抜き差しのし易さやマグネットの嵌り具合などを検証しながら7つのバージョンを経て完成しました。

最初に考案したキーレンチのホルダーのスケッチ。マグネットでデスクの脚に固定する。
キーレンチやマグネットの嵌合具合の最適値を探るための試作品。

最初の量産品では、SLS(粉末焼結積層造形)方式の3Dプリントを採用しました。金型を必要としないため、小ロットでも安定した品質で生産することができます。

PREDUCTS DESKの付属品になった第1世代のキーレンチホルダー。
当時の3Dモデルデータ。一度のプリントでより多く製造するために限界まで積み重ねてプリントしていました。

第2世代:金型を用いた品質の安定化

第1世代のキーレンチホルダーで当初は満足していたものの、どうしても3Dプリントの質感ではプロトタイプの雰囲気が拭えないことが気になり始めました。

次第にPREDUCTS DESKをお使いいただくお客様も増えてくると、もっと質感がよく高品質なプロダクトを提供したい欲求が芽生えてきました。そして、ついに金型を用いた射出成型での製造にアップデートすることにしました。

左が第1世代の3Dプリント。右が第2世代の射出成型。

一般的に樹脂の射出成型になるとまず最初に金型を製造することになり、その費用は数十万〜百万円ほどの初期投資が必要になります。

また、成型が失敗しにくい金型を想定した設計が必要となり、3Dプリント用の設計をそのまま流用することはできず、金型に関する専門的な知識も求められます。

そこは射出成型に詳しいプロダクトエンジニア・ミヤザキさんの腕の見せどころ....のはずでしたが、設計途中でアメリカ4,000km踏破の旅に出かけてしまいました。

アメリカのロングトレイルを半年間歩き続けたミヤザキさん。

日中はアメリカ大陸を歩き続けているので、夜間や休息日、ネットがとれる地域にいるタイミングなどで工夫しながら設計のアップデートを続ける日々。試作品の実物を見ることが難しいので、日本側で受け取った試作品を試し、感想や動画をミヤザキさんに送り、製造の知見をもとに設計へとフィードバックするというこれまでにない製品開発プロセスを経験しました。

海を隔てた開発は難航したものの、数度の金型の手直しを経て、なんとか第2世代のキーレンチホルダーが完成。

表面の仕上げもきれいになり、歩留まりも大幅に向上。安定した品質でプロダクトを届けることができるようになりました。

第3世代:ユーザー体験の追求

第3世代のキーレンチホルダー。

射出成型の安定した品質に満足したのも束の間、しばらくすると今度は使い勝手が気になりだしました。

ネジを回そうとした時に、キーレンチホルダーからキーレンチを一旦外して、使い終わったらまたホルダーに収めて、デスクに装着しないとならない。(今さらな指摘だとは思いつつも)この一連の所作が非常に億劫なのではないかと感じるようになったのです。

「ホルダーは脚に付いたままで、そのままキーレンチを取り外せるようにしたい。戻すときもマグネットの磁力でスチャッと戻したい」————そんな仕様を思い描き開発を開始したのですが、これが恐ろしく長い道のりの始まりだとは、当時は微塵も思っていませんでした。

最終的に辿り着いた第3世代のデザイン。使いたいキーレンチだけ付け外しができる。

開発は実に難航しました。キーレンチを気持ちよく付け外しするための内部に収めたマグネットとの干渉具合、キーレンチを外す際に、ホルダーがズレないための摩擦係数の高い樹脂の選定、PREDUCTSらしい造形の探索……。

無数にある変数から理想の形を見つけるのに、31種類ものバリエーションを3Dプリントしては検証を重ねました。

左上の最初期バージョンから、右下の最終バージョンまで。手元にあった試作品を並べてみたのですが、残っていないバージョンもありこれも一部のみ。

そして、新たな金型の製造も必要です。量産時に射出成型した際に、美しく仕上がるためには金型のデザインに経験と知識が不可欠。今回もプロダクトエンジニアのミヤザキさんが日本の土を踏みながら活躍してくれました。

こうして、遂に第3世代のキーレンチホルダーが完成。要した期間は実に11ヶ月。3世代目にして、過去最長の開発期間となりました。

キーレンチホルダーにこだわる理由

今回、第3世代のキーレンチホルダーを設計したことは、改めて自分たちのルーツを見直すきっかけにもなりました。

私がPREDUCTSを創業した際にしたためたnoteを読み直してみると、できるだけ多くの方に、自分のワークスペースをよりよい環境にしてもらいたい。それによって「いい仕事」を通じて充足感を得てもらいたい。そんな気持ちでPREDUCTSというメーカーを立ち上げました。

DIYが苦手な方にも、なるべく簡単に自分のデスクを構築しカスタマイズする楽しさを感じてもらいたい。そのためには「ネジを回す」という第一歩をより身近にしたいと思うのです。

このキーレンチホルダーの開発には、第1〜3までを含めると百万円単位の金額が開発費としてかかっています。これは私たちの規模から考えると、それなりにインパクトは大きい数字。かつ、「付属品」と考えると、正直割に合わないということもできます。

ですが、PREDUCTS DESKのはじまりから考えるとキーレンチは大切なもの。加えて、こういったキーレンチは様々なものに付属しているので、半ば使い捨てのようになっている現実もあります。だからこそ我々は「使い続けてもらう」ために尽力したほうがいい。そんな想いもあり、開発し続けているのです。

PREDUCTSのロゴを冠した初めてのプロダクト

最後に、デザインの話を少しだけ。実はこれまでPREDUCTSが提供してきたプロダクトには、ロゴが備わったものはありませんでした。

特に明確な理由があったわけではなかったのですが、何となく入れないということでメンバー間でも合意形成をしていた気がします。

ですが、このキーレンチホルダーが完成した際、誰かが「ロゴ入れようよ」と言い出し、誰も否定することなくロゴを刻印することが自然と決まりました。

これがPREDUCTSの新たなスタートを切る、そんなツールになってくれるといいなと思っています。

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