自然に、夢中で続けたことが「記憶に残る」ものを生む—トバログ・鳥羽恒彰

2024-01-29INTERVIEW

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を“シゴト”と呼び、“シゴト観”とその背景を紐解いていきます。

「それ自体が楽しい」
「夢中になっている感覚」
「完全に趣味」
「好きだし作りたい」

お仕事について伺うと、そんな言葉を重ね重ね話してくれたのが、ブロガー・YouTuberで、『トバログ』を運営する鳥羽恒彰さん。

ブログもYouTubeもその活動自体に、自身にとっての楽しみがある。かつ、その行動原理は子どもの頃から一貫しているものだといいます。文字通り、没頭し続けてきた経験が現在の鳥羽さんを作っているといっても過言ではありません。

今回は、プロトタイプパートナーとしてデスク「POLAR」の開発にもご協力いただいた鳥羽さんに、ものづくりへ注ぐ熱と、源泉を紐解きます。

「楽しくて自然とやっていること」が一貫して今に

はじめに、現在のお仕事を簡単に教えてください。

今は主にYouTuberです。元々はブログを中心に活動していましたが、今は自身のYouTubeチャンネルを運営し、オリジナルとタイアップ両方の動画を企画・制作・発信しています。

あとは商品企画・開発に携わらせていただくこともあります。「タイプスティックス」というラップトップPCで外付けキーボードを使うアタッチメントをファーイーストガジェットと開発したり、「HALF DAYPACK」というiPadユーザーのためのボディバッグをdripと開発したり。PREDUCTSのデスク「POLAR」もご一緒させていただきましたね。

普段は、ご自宅でお仕事を?

作業はそうですね。オリジナル動画であれば、部屋だけで完結するものも多いので。「これ撮ろう」という企画がまとまれば、撮影して、編集して、アップするまで1日で完結することもあります。

ブロガーとして活動していた時の動きが染みついている側面もありますが、ブログの方が午前で記事を書き、午後はリサーチに出かける・・・とかがしやすかったので、ペースは以前よりはスローになりました。

プロトタイプパートナーの鳥羽さんと共同で開発した『DESK - POLAR / Standing』。自宅の一室にある仕事部屋に設置されている。

どのようなリサーチを?

コンテンツ作りにも、タイアップの企画を練るのにも、元ネタが必要ですから。家電量販店や生活雑貨店、インテリアショップ等......様々なところを見て回るんです。

魅力的なガジェットやプロダクトを探すのはもちろん、市場動向を探るのにも役立ちます。例えば「前はキーボードコーナーだったのに、ゲーミングPCコーナーになってる」とか、「最近VRの取り扱いが増えたな」とか。そういった部分からも企業の注力ポイントや生活者の関心が見えてくる。オンラインでは細かな変化を見落としてしまいやすいので、足を運ぶことは大切にしています。

かなり丁寧に調査されるんですね。

そうですね。ただ自分の中ではリサーチという行為、“それ自体”が楽しいという感覚もあるんです。いいなと思うものを探し、自分のものにしていく行為自体に魅力を感じている。

子どもの頃は、秘密基地を作るための素材をホームセンターや100均へ探しに行ったり、ゲームソフトを探しに中古ゲーム店へ行ったりしていました。大学生の時には、日々ガジェットを見に行きたいという気持ちから、秋葉原へ通いやすい場所の学校を選んだりしていました。

自分の中では物心ついた時から同じサイクルで行動してる感覚で、対象となるものが変わっているだけ。行動原理はずっと同じなんです。

デスク周りは白のガジェットで統一されている。

そうした自然と楽しんでやってきた行為に、“発信”が紐付いたのが現在のお仕事かと思います。今のような生き方を思い描きはじめたのはいつ頃だったのでしょうか?

かなり漠然とは、大学生くらいから想像していました。

ブログを始める前後くらいになんとなく意識はしていて。Engadget日本版の編集部でインターンを経験したりもしました。特に影響を受けたと記憶しているのは、元Gizmodo編集長 ブライアン・ラムさんの記事ですね。

ガジェットメディアを運営しながら、ハワイに移住し悠々自適に暮らす...という生き方を見て「うわぁ、これやりたいな」と思ったのをよく覚えています。

そこから、ブロガーとして独立できるように経験を?

結果的には、ですね。正直自分にできるとは思っていませんでした。新卒でも普通に就職しましたし、会社員とブロガーを並行でやり、収益でガジェットを買うお金がペイできればくらいの気持ちでした。いつかはそういう生き方ができるといいな.....くらい。

ただ、ありがたいことに徐々にブロガーとしての活動が忙しくなり、2018年に意を決して独立。その後、様々なお仕事を個人として経験しつつ、ブログからYouTubeに主なプラットフォームを変えて今に至ります。

YouTubeの撮影機材。正面と真俯瞰の2アングルから撮影できるようセットアップされていた。

「作ってみたい」を夢中で突き詰める

鳥羽さんはブログもYouTubeも、白を中心とした世界観で統一されています。ものはもちろん、写真や動画のトーンもしっかりと統一されていますが、これはいつ頃からなのでしょうか?

もの自体は元々白が好きというのがあるのですが、今ほど徹底したり、写真などのトーンまでこだわりだしたのは、ブログをはじめて数年経った頃からです。

当時のガジェットブログといえば、機能比較などが主で、写真は適当に撮ったものが中心。自分も当初は同じようにブログを書いていたのですが、それだとやっぱり埋もれるなと感じていて。そんなとき、色々リサーチする中で見つけたのが女性誌がガジェットを紹介する特集だったんです。

新生活の時期になると、女性誌でもPCやタブレットなどの仕事道具を紹介することがあるんですが、そこでは機能性ではなく、きれいなビジュアルだったり生活の中での見え方だったりで訴求していました。しっかりと作り込まれた雰囲気のある美しい写真を見て、「こういう撮り方するのか」と驚いたのと同時に「かっこいいから作ってみたい」という気持ちが沸いてきて。それ以降、今のような絵作りだったり雰囲気にこだわった紹介方法に変わっていきました。

デスクの裏にはPC MountとTray M、Mesh Cable Holder、Gadget Mountが設置。そのほかヘッドホンホルダーや、ティッシュボックスなどの社外品も活用しつつカスタムされていた。

差別化でもありつつ、「作ってみたい」という内発的な動機があったんですね。

そうですね、振り返ると「かっこいいからやってみたい」というのも昔から変わらない気質のようなもので。子どもの時は、ゲームボーイでした。当時ゲームボーイ用のカメラと専用プリンタがあったんですが、それらを「全部そろえて持ってるのかっこいい」という気持ちがあって、常にカバンに入れて持ち歩いてました。

あとは、高校・大学と器械体操をやっていたのですが、あれも映画か何かで見て「かっこいいな」と思い、これやりたいというのが最初の原動力になりました。

ただブログや動画を見ると、その突き詰め具合は突出している印象があります。

自分の中では単に楽しくて夢中になっているだけなんですよね。当時も、その雑誌に載っていたものを真似したくて、写真の撮り方を調べたり実験したり、他の雑誌からも参考になるものがないかと事例を探したり。

大体頭の中にゴールに近いイメージがあって、 そこに行くにはどういう道筋をたどればいいかを考えるゲームみたいな感じなんです。かつ、作る人全般そうだと思うんですが、ゴールに向けて手を動かし続けていると徐々にゴールの解像度が上がっていくじゃないですか。

積んでいる本は幾度も手に取り、参考にしているものばかりだという。部屋の各所に雑誌から作品集、デザイン本など多種多様な本が積まれ、リファレンスの幅の広さが伺えた。

例えば、雑誌で見た写真も、当時は「シンプルな白っぽい背景に、冷蔵庫が置かれている」だったかもしれませんが、自分で試していくと、「白といっても少し青みがかっている」「陰影の出方的に少し柔らかい光が必要」というのが少しずつ見えてくる。そうした理解が深まるプロセスも楽しんでいると思います。

自分の場合は、雑誌や本などからの影響やインプットが多くて。「これいいな」と感じたものを覚えたり、書き留めたり、写真に撮ったり、キャプチャしたり...と貯めていっているんです。

それらをきれいにアーカイブしたりするわけじゃないんですが、頭の中ではどんどん深まっていくので、それが自分の作るものやもの選びなどの解像度に反映されていく感覚があります。

きれいに並べ、俯瞰で撮影し、斜めにするとトバログ風の絵作りに。鳥羽さんの場合これを青みがかった白に仕上げる現像のアプローチがあるという。

インプットも、意識的というよりそれ自体を楽しんでいるような?

完全に趣味だと思います。かつ、インプットしたものを自分なりに昇華して形にする行為自体が一番好きですね。

例えばYouTubeのテロップとかも都度都度実験していて、白いものの上に白文字だと読みづらいのを、どうレイアウトしたり、あしらいをつけたりすることでいい感じに仕上げられるか・・・みたいなことをいろんなものからインプットしつつ、形にしてみています。

シンプルにいえば「かっこいいな」を「自分っぽくしたらどうなる?」っていうのをひたすら試してる感覚ですね。

作ることへの熱意が「記憶に残るもの」を生む

YouTubeやブログを見ると、ルームツアーやカバンの中身、インタビューなど、雑誌のような企画ものもあります。インフルエンサー的なコンテンツとは毛色が違うものだと思いますが、なぜ展開されているのでしょうか?

そういったコンテンツが好きだし作りたいという気持ちが根っこにあるからだと思います。時間が経っても面白いと思えるコンテンツって、やっぱりインタビューのように人が介するものだったりしますから。自分が元Gizmodo編集長の記事に影響を受けたのもあり、そういった息が長く影響を与えられるようなコンテンツを作りたいんです。

ただ、自分はガジェットのレビューが得意だったので、それにうまく人を合わせられないかと試行錯誤し、いまのようなコンテンツにたどり着いているんです。

実際、ルームツアーやカバンの中身などは再生数をみてもかなり視聴されているように見受けられます。

ありがたいことに最近は見ていただける方が増えてきていますね。ただ、YouTubeのアルゴリズムでいうと、iPhoneやAppleに関する話だけをひたすら投稿していく方が数字的には積み上げやすいんです。

実際、ブログからYouTubeにプラットフォームを移し登録者数が一定数になるまでは、自分もアルゴリズム的にも相性が良かったり、見られやすいフォーマットを意識していたりもしました。

ただ、YouTubeの視聴者に実際に会ってお話しした際、話題にあげていただくのはルームツアーだったり、決して再生数は多くないけれど個人的には気に入ってるものの紹介動画だったりする。つまり「再生されている」ものが必ずしも「記憶に残っている」わけではないんです。

だから最近は落ち着いて、「自分がいいと思うもの」と丁寧に向き合っていますね。「作りたい」と心から思えるものを作ることが、結果的にもいいと思えていますから。

ありがとうございました。

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