欲望を形にする、つくる楽園へ — Konel

2024-05-13INTERVIEW

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。私たちは、そんな仕事を“シゴト”と呼び、シゴトを軸に様々なインタビューを展開します。

本連載のテーマは「シゴト場」。個人/企業を問わずワークスペースはそこに人の思想が表現されます。そんなシゴト場へ足を運び、そこでの活動とシゴト場に対する想いを伺っていきます。

日本橋地下実験場———。

そんな不思議な名がついた施設が東京・日本橋の一角、衣類や雑貨の問屋が並ぶエリアに存在する。ここで活動しているのが、クリエイティブ集団・Konel。「欲望を形に」という、クリエイティブの会社とは思えぬユニークな言葉を掲げ、クライアントワーク、自社プロダクト、そしてメディア運営と幅広い事業を展開する。

地下実験場に移転する前は、馬喰町FACTORYという名前で一棟ビルを借り上げ、ギャラリー兼オフィスを運営するなど、これまたユニークな“場”の使い方をしてきたKonel。同社にとって、ワークスペースとはどのような意味を持つのか。その“シゴト場観”を、同社Technical Director / Co-Founderの荻野 靖洋さんに訊く。

“つくること”が中心にある

はじめに、Konelがどんな会社かを教えてください。

Konelは「欲望を形に」という言葉を掲げる越境クリエイティブ集団です。クリエイティブの分野ではクライアントワークや自主プロジェクト、そして『知財図鑑』という知財と事業をマッチングさせるクリエイティブ・メディアを展開しています。(編注:知財図鑑はスピンアウトし、法人格としてはKonelと別法人)

アウトプットはハード/ソフト、有形/無形は問いません。先進的な技術を使ったユースケースを開発することもあれば、企業のブランディングを手掛けることもありますし、空間や場を作ることもあれば、インタラクティブコンテンツをつくることもあります。

ここ(取材場所である地下実験場)にも、様々なプロトタイプやものづくりの道具のようなものが置かれていたので、ハードが主かと思っていました。Konelらしいプロジェクトというのはどのようなものなのでしょうか?

難しい質問ですね(笑)。領域が広いので“これ”というのが言いづらいのですが、あえてあげるとすれば「Transparent TABLE」でしょうか。当時パナソニックにあった「4名同時に接触認識ができるマルチタッチモニター」という研究段階の技術を活用して新しい体験を作れないか?というご相談から始まったものでした。

Transparent TABLE

私たちがその技術の生かし方を自由に妄想し、プロトタイプという形で具現化したのが、「Transparent TABLE」です。これは会議における議事録の作成や可視化、投影…のような手間のかかるプロセスをもっと簡単にやれないかという妄想から生まれたもの。

このテーブルを囲んで会話すると、話の内容をもとに話題に関連する画像が次々とテーブル上に表示され、ユーザーがその画像の中から気に入ったものをピンしていくと、会議後にその画像のアーカイブが生成されスマホなどで持ち帰れるというものです。

先ほどのパナソニックの技術と、会話を画像によりリアルタイムで可視化するTransparent APIという既存技術を組み合わせて具現化しました。

このプロジェクトを通じて、私たちは社会には多くの"可能性を秘めた知財"に満ち溢れていることに気づきました。それらの活用方法を妄想し、具現化し、問いをたてる、いま私たちのクリエイティブの中心にある「妄想と具現」というアプローチを最初にかたちづくったものだったんです。

妄想と具現、中々クリエイティブの会社では耳にしないような表現ですね。

「妄想と具現」そして先ほどもお話しした「欲望を形に」という言葉は、Konelの創業から比較的早い段階で中心に置かれた言葉です。

私たちは、「社会をよくする」「こういう課題を解決する」といった世の中に対する言葉ではなく、あくまで“つくり手”としてどうありたいかの方が自分たちとしてしっくりきた。それもあって、この言葉を大上段においているんです。

Konel Technical Director / Co-Founder 荻野 靖洋さん

Konelという社名も元々コンサルで働いていた代表の出村が、頭だけで考えて仕事をするのではなく、「捏ねる」というものづくりにおける試行錯誤する姿勢を大事にしたいという思いからつけたもの。会社として、つくることが中心にあるゆえの言葉でしょうね。

だからこそ、こうした“つくること”が随所にあるようなワークスペースになっているんです。

創造性を高め、ものづくりのための制約をなくす環境

ワークスペースについても教えてください。入ってきてまず目を引いたのが地下実験場という名前だったのですが、これはどのような経緯でつけられたのでしょう?

ここへ移転する際、1階を執務スペース、地下を大型のものづくり/プロトタイピングをする「実験の場」として使おうと考え名付けたものです。

移転前は、馬喰町FACTORYと名付けた小さなビルを一棟まるごと借りてギャラリーを併設したワークスペース、作業場として活用していました。実際ギャラリーで展示をしてくれた人と繋がって新たな仕事が生まれたこともあり、場が持つ可能性は常々感じていました。

ただ、当時の作業場は狭く大きな作品が作れず、また、住宅も近いため音や匂いを出す作業ができませんでした。大きさ、機材、周辺環境など、ものづくりの制約をなるべく減らしたい、という思いからこちらに移転し、地下実験場と名づけました。

最近はメンバーも増えてしまったため、地下も含めてワークスペースとして活用し、代わりに近所のコワーキングスペース内に部屋を借りて「自由に使える場」としています。先日はメンバーがアート作品を作るアトリエとして利用したりしていました。

文字通り、“ものづくり”の実験をするための場という意図だったんですね。

はい、この名前とコンセプトがあったからこそ生まれたものも数多くあります。周りを見ていただければ分かると思いますが、面積も天井高もある分好き勝手に思いついたものを形にできる。その分いつも雑多な感じにはなってしまいますが、Konelの価値観を体現しているような側面もあると思います。

Konelの手がけたプロジェクトの一部

オフィスやワークスペースを形作って行く上でこだわられている部分などはあるのでしょうか?

会社として“ものづくり”をする上での快適さは重視していますが、その他にも「創造性/パフォーマンスを発揮しやすいように」というのは各メンバーが意識し、日々オフィスが進化しています。いつの間にか自作のコーヒーステーションができていたり、運動不足を解消するための懸垂バーが設置されていたり、など環境を良くするために各々が自発的に工夫を繰り返しています。

このマインドは習慣にも取り入れられており、例えば代表の出村は「アイデアを思いつく日」をカレンダーで決めていて、そこに向けて生活習慣を整えたりインプットをしたりと、創造性を発揮できる状態を作りにいっています。

ただ、単に「良さそう」で何かやるというよりは創造性を科学したいという意識も強く、リサーチだったり自身の中での試行錯誤を経た上でやりかたを考えたりしているように感じます。

何か全員一緒に「こうしよう」というよりは、各々がパフォーマンスを出すための環境作りに何らかの意識を持たれていらっしゃるようなイメージですね。KonelさんにはPREDUCTS DESKを4台入れていただいています。これはどのような経緯だったのでしょうか?

地下に設置されたPOLAR/1階に設置されたMETRO DARK

PREDUCTS DESKに関してはオフィス環境構築の一環で、個々のニーズというより「みんなで使えるように」という意図からでした。仕事柄どうしても座りっぱなしになりやすいのでスタンディングできる環境を求めていたこと、また、フロアが別れているとメンバーが分断されてしまうため、そこを繋ぐような機能を持たせられないかという思いが背景にありました。

4台のうち、3台は1階の階段手前にフリーアドレスの個人用デスクとして設置。1台は地下の階段を降りてすぐの場所にミーティング兼デモ機のセットアップ用デスクとして設置しています。

実際、1階のデスクはよく個々人がオンラインミーティングなどをスタンディングでやっていますし、地下のデスクは上から降りてきたメンバーと地下のメンバーが立って話をする時などにも一役買っています。

つくることが目的化した「つくる楽園」へ

メンバー間をつなぐものとしても機能しつつ、さきほどおっしゃっていた「創造性/パフォーマンスの発揮」にも役立てていただいていると。こうした環境構築は以前から積極的にやってこられていたのでしょうか?

Konelはコロナ禍でも出社率が高く、特に地下はオフィス環境ありきの働き方をしているため、ワークスペースづくりには力を入れていましたが、最近は以前にも増して環境づくりと向き合うようになりました。

その発端は、昨年全メンバーで実施した「Konelの今後を描くための合宿」にあります。

Konelはこれまであまり長期のビジョンなどは言語化していませんでした。ビジョンを押し付けられるのが嫌いなんですよね。ただ、ここ数年でメンバーの数が増え、多様化が進んできたため、ビジョンではないにしろ、経営メンバーが向かって行きたい方向は一度示すべきだろう、その上で対話をしたい、と考えました。

3Dプリンタやレーザーカッターなどの機材が並ぶファブエリア。小型のプロトタイプやパーツ類などを気軽に出力できる

合宿のために経営メンバーが考えていることを14時間かけてインタビューし、一冊の本にまとめ、その本を元にメンバー各々の考えや思いとKonelの方向性の接続する機会を設けたりしました。

そこで言葉にしたKonelの目指す方向性というのはどのようなものなのでしょうか。

「つくる楽園」が我々にとって一番しっくりきている言葉ですね。

本をまとめる中で出てきた言葉だったのですが、Konelは冒頭にもお話しした通り、「つくること」が真ん中にある会社。「つくること」は単なる手段ではない、それ自体を目的にしたいと思っているんです。

つくること自体を楽しめて、その過程での気持ちよさが、次の“つくりたい”に繋がる。夢中になってつくることを楽しんでいれば、自然と可能性が拓け、次なる”つくる機会”や“つくりたいもの”が生まれていく。そうした循環が生まれる場がKonelであり、その循環が生まれやすくなるよう、つくることに熱中でき、障害になるようなものがない場が「つくる楽園」のイメージです。

そこに必要なのは、創造性が発揮しやすい場かもしれないし、何でもすぐにつくれる設備かもしれないし、豊富な技術やアセット、優れた技術やアイデアを持った人やチーム、面白そうなプロジェクトや相談かもしれない。Konelはそんな「つくる楽園」になっていきたいと思っているんです。

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