MS Optics:完璧を追い求めない、オルタナティブなレンズメーカー

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

これは私たちブランドの目指す姿でありつつ、自分たち自身が、道具に求めていることでもあります。日々使う道具も”使いやすく”、”創造性を刺激してくれる” ものであってほしい。そんな道具を探しながら、ものづくりに勤しんでいます。

このシリーズでは、PREDUCTSのメンバーが普段愛用している道具たちをご紹介していきます。

こんにちは。PREDUCTSでJOURNALを中心にコミュニケーション関係を担当している小山と申します。

私はPREDUCTSを含めメディアやコンテンツに携わり、テキストや写真・動画等の制作・撮影をする機会が多くあります。そんな中、仕事道具として特にこだわりをもっているもののひとつがカメラです。

そこで今回ご紹介するのは「MS Optics(宮崎光学)」というレンズメーカーです。

個人メーカーゆえの、唯一無二なプロダクト設計

ご存じの通り、カメラ・レンズをはじめとする光学機器は、キヤノン、ニコン、ソニーをはじめとする大手メーカーが市場のほとんどを抑える世界です。その中、ほぼ「一人メーカー」としてオリジナル設計のレンズを少ない量生産で展開し、国内のみならず海外からも評価を得るとても希有なメーカーがMS Opticsです。

MS Opticsは、宮崎貞安さんという方によるオリジナルレンズメーカーです。千葉県船橋市にある工房(というか宮崎さんのご自宅の地下室らしい)で、「オリジナルレンズの製造・販売」と、「既存レンズの改造サービス」をされています。宮崎さんご自身がLeicaが好きなようで、主にLeicaのMマウント用レンズを展開しています。

ほぼ個人メーカーなので製造本数・流通量とも少ないのですが、国内はもちろん海外にも熱意のあるファンを抱えている同社。海外のカメラやLeica関連のフォーラムを見ると、日本より先にレンズのレビューが上がっていたりします。

私の思う同社の最大の特徴は、そのレンズ設計のユニークさ。主要メーカーではまずやらない「軽い」「小さい」「独特な写り」「実用性」の4要素を兼ね備えるのが、MS Opticsの特徴だと私は考えています。

SONNETAR 1.1/50 MC|筆者がはじめて手にしたMS Opticsのレンズ。かれこれ5−6年くらい愛用し続けている。

例えば、同社の名前を広めた代表作と言われるレンズにSONNETAR 1.1/50 MCというのがあります。これはF1.1という明るさながら、重量は190g。最大径φ55mm、全長47mmというコンパクトなサイズ。Mマウントレンズ(正確にはレンジファインダー用レンズ)は相対的に小さく軽いとはいえ、スペックから考えると相当なものです。

参考までに、同程度のスペックのMマウントレンズで比較すると以下の通り。「軽さ」「小ささ」が相対的にも分かるかと思います。

  • Voigtländer Nokton 50mm F1.2:重量347g、最大径φ63.3mm、全長49mm
  • 7artisans 50mm F1.1:重量400g、最大径φ62mm、全長48mm
  • Leica Noctilux 50mm F1.2:重量470g、最大径φ61mm、全長52mm
  • MS Optics SONNETAR 50mm F1.1:重量190g、最大径φ55mm、全長47mm

なぜこの設計が可能か?それは個人メーカーゆえの割り切り具合だと思っています。

大手メーカーの場合、MTF曲線で表現されるようないわゆる“性能”を一定担保するため、どうしてもレンズは重く、大きくなっていきます。かつ、量産に耐えうる設計や品質管理といった観点からも制約条件は多くあるはずでしょう。

対して、MS Opticsはそうした”性能”では戦わず、描写が甘かったり、ボケが少々粗かったり、フレアやゴーストが出やすいものもある。かつ、手作りのため、おそらく大手メーカーレベルの生産効率や品質管理は難しいはず。ただ、その結果、オールドレンズのような特徴的な写りだったり、現代ではなかなか試さないような設計だったり、驚くようなサイズ感が実現したりする。それらが、愛好家から高い評価を得る結果につながったりするのです。

実際、私自身ファインダーをのぞいていた時には想像もしていなかった絵がディスプレイに映るのをみて、ついニヤニヤしてしまう——そんな、レンズなのです。

無論、冷静に考えると大手メーカーのような設計技術も生産量もないため、高性能を追い求めたり、資材調達や品質管理という面で高い水準を目指すことは、とても無理な話。ただ、その一見すると弱みとも言える部分を逆手に取り、むしろ昨今の光学機器の進化の方向性とは異なる“ユニークなポジション”を築いているともいえます。

“ものづくり”自体を楽しむようなプロダクト

あくまで、既存情報からの引用ですが、ここでMS Opticsの歴史も少しだけ。

創業者の宮崎さんは、元々玩具メーカーのトミーでプロダクトデザインや設計等をされていた方。たしかにお名前で検索すると某デザイン賞の受賞歴等が出てきます。

その後、(なぜか)レンズメーカーとして独立。当初は既存レンズのMマウント改造などを主に手がけられた後、2000年代中頃よりオリジナルのレンズの設計・製造をするようになったようです。ちなみに名前が少しずつ変わっており、時期によって「宮崎光学」「MS-OPTICAL」「MS-OPTICAL-R&D」といった名称になっていることがあります。

今でこそ、中国などを中心にカメラやレンズのスモールメーカーも珍しくなくなりましたが、2000年代はまだまだ個人起点でのものづくりのハードルが高かった頃。いわゆる”ものづくりの民主化の流れ”とも言われるメイカーズムーブメントが盛り上がったのが2010年代。クリス・アンダーソンの著書『MAKERS』が刊行されたのも2012年ですから、MS Opticsの黎明期はそのさらに手前。

そうした容易ではない環境下でも、宮崎さんはものづくりのハードルを一つ一つ乗り越え、徐々にラインナップも拡張し、いまのようなユニークなレンズを次々と生み出せる状態を作られたのでしょう。そこには、“ものづくり”自体を楽しみ探求するような熱意があったのではないかと想像されます。

製品パッケージも、紙箱に手書きの説明書(をコピーしたもの)が同梱され、手作り感があふれる。

そんな熱を感じさせる、ちょっと変わった商品群があります。

MS Opticsの既存商品や公式ECを見てみると、いわゆるレンズの鏡胴でイメージされるブラック/シルバーに加え、ゴールドやグリーン、ブルー、レッドなどのユニークな色も展開。さらには漆塗りや蒔絵加工など、普通のレンズでは見ない仕上げのものがちらほら見受けられます。(ちなみに、漆塗りは宮崎さんの地元石川県の伝統工芸とのこと)

正直、通常のレンズほどの流通量は見込めなさそうなものですが、それでも作ってしまうあたりに作り手としての楽しむ姿勢が感じられます。

愛用品の御紹介

さて、ここで私が現状持っているMS Opticsのレンズを3本ほどご紹介します。

SONNETAR 1.1/50 MC

冒頭でも紹介したSonnetar。性能から考えると驚くほどの小型軽量なレンズです。魅力的なレンズが数多くある50mmという焦点距離にもかかわらず、長年愛用し続けています。開放はもちろんとても緩い画なのですが、絞るとそれなりにかちっとする万能機。

開放はわりとじゃじゃ馬ですが、上手くはまると面白い画が撮れるので、つい開放で撮影してみたくなるレンズ。ハマらない場合もF2〜F4くらいまで絞ればしっかり画になるので遊びという意味でも、常用という意味でも活躍する幅は広めとも言えます。

これ自体の生産は10年弱(?)前で、私自身生産終了後になんとか探して中古で購入したもの。現在は後継機種のような名前のSONNETAR 1.3/50が新品でも手に入ります。

APOQUALIA-G 1.4/35 F MC

一番愛用しているのはこのAPOQUALIAです。こちらも驚くほどの小型軽量で、重量90g、最大径φ49.5mm、全長23mm。35mmは比較的小型軽量なものも多いですが、このレベルに至るものはなかなかないはず。

初代Summilux35mmのオマージュと言われていますが、そこまで扱いづらさはなく、良い意味でオールドレンズのおいしいところを味わえるようなレンズです。

ちなみに、西新宿の防湿庫ことMAP CAMERAがREIROALという名前で別注品も出しており、そちらは鏡胴の質感も含めて一級品。レンズ設計は同一なのですが加工品質の問題か、そちらの方が写りはより扱いやすかった記憶です。(過去にREIROALも持っていたのですが諸事情で入れ替え)

こちらも生産は終了しており、近しい物だとSONNETAR 1.3/35があります。

PERAR-R 4.5/17 MC

個人的には、SONNETAR以上に「これぞMS Optics」と思っているのがPERAR。(その意図でつけられたのかはわからないですが)名前の通り、とてつもなく薄いペラペラのレンズで、28mmより広角域でいくつかの焦点距離を展開しています。記憶している限りでは35/28/24/21/17mmが展開されていたはず。

この17mmは重量50g、最大径φ50mm、そして全長10.2mmという驚異的な薄さ。ちまたにあるパンケーキレンズも真っ青なサイズ感です。レンズ構成が4群4枚ととてもシンプル。ちなみに21mm などはTripletと言って「3群3枚」とさらにシンプルな構成。これでもちゃんと写るんだなと驚かされます。

私の場合、広角域を使う機会が少なく、単焦点となるとどうしても持ち出しが億劫になるのですが、さすがにこのサイズだと鞄に入ってても気がつかないレベルなので「とりあえず入れておく」が成立するレンズ。

描写だけを見ると、17mmというのも相まって周辺の流れや解像度低下、周辺減光などはさすがに気になりますが、“あればうれしい”くらいで持ち運ぶには許容できるレベルかなと思っています。

オルタナティブな選択肢として

同じ50mmレンズの対比。右からMS Optics SONNETAR 1.1/50 MC(Mマウント)、Leica APO-Summicron 50/2(Mマウント)、Nikon NIKKOR Z 50/1.8 S(Zマウント)。マウントの違いはあるが、同じ50mmかつ最も明るいSonnetarが一番コンパクトである。

昨今あらゆるレンズ・カメラ共が、センサーの高画素化にあわせ高性能化&大型化し続けています。プロの仕事道具として捉えればそうした変化も不可欠な側面もあると思うのですが、ある種嗜好品的にカメラをたしなむ私のような人間には、そこまで”やりきる”必要はないこともある。

そんな人にとってMS Opticsのようなオルタナティブな選択肢は、撮る楽しさや手軽さを取り戻してくれる。同時に、“ものを見る楽しさ”を届けてくれるプロダクトでもあります。

他方で、正直合う人/合わない人はいるレンズだとも思います。性能としてはかなりとがっていますし、どんな環境でもそれなりの写真を撮れるというものでもない。人によっては重量やコンパクトさ以上に、気になる点がある場合もあるでしょう。自分自身、今回の記事内写真のような物撮りでは開放付近の描写が甘すぎるため使うことはほぼなく。ポートレート、かつ比較的雰囲気を重視する場合を選ぶことが多いです。

ですが、そうしたある意味の「万能ではないからこその強み」があるからこそ、「道具ならではの仕事」が生まれるようにも感じます。

もしハマる方であれば、きっと唯一無二の至高のレンズとなるはずです。

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