妥協なき人生のために、これからもつくり続ける — 﨑村昂立

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を“シゴト”と呼び、“シゴト観”とその背景を紐解いていきます。

登山・アウトドアの事業を手がけるヤマップでブランディングディレクターとして働く﨑村昂立さん。ブランド施策の企画から、メディア、YouTube、社員総会の動画制作……会社を伝えるあらゆる“面”が﨑村さんのフィールド。いずれでも、「つくること」と関わっているそう。

そうした「つくること」と向き合う姿勢は仕事に限りません。学生時代から「つくること」が当たり前に存在し、一貫して好奇心と熱意があるそう。その一方で、東京から福岡へ移住、福岡の中でも中心地から現在の糸島で暮らすようになるなど、生き方やその背景にある価値観は常に変化してきているとも言います。

﨑村さんは、いかに「つくること」と向き合っているのか。その価値観の根底と変遷を探るべく、こだわりの詰まった糸島の自宅で話を伺いました。

コミュニケーションをあらゆる切り口から

﨑村さんの肩書には「ブランディングディレクター」とあります。どのような役割を担われているのでしょうか?

どう表現するかいつも迷うのですが……一言でいえば、ヤマップのさまざまな面を社会に伝えていく、そのための“コミュニケーション”を担う役割だと考えています。

目指すことやその背景にある想い、サービスの魅力などを世の中に伝えていくのが自分の仕事。そのために企画をつくり、テキストや動画、イベントなど、さまざまな形で継続的にコミュニケーションしていく。ヤマップを世界に向けてひらく役割とも表現できるかもしれません。

ブランディング施策の企画・ディレクションに加え、『YAMAP MAGAZINE』やYouTubeチャンネルの運営、ときには社員総会のオープニングムービーを作ることもあります。最近では、オリジナル短編番組「山歩しよう。」も担当していますね。

どんな役割を担うにしても、企画から実行までやることはほとんど共通しています。目的に合わせて、必要なことはできる限り何でもやる。そうやって積み重ねてきた結果として、今の自分が形つくられてきたと感じます。

なぜそのような立ち位置で働かれているのでしょうか?

意識的にこの立ち位置を選んで来たわけではないのですが、強いて言うなら比較的会社の初期から働いており「何でもやるのが当たり前」の環境だったこと。ヤマップが成し遂げたいこと、掲げているパーパスに対して、一人の人間として強く共感していること。そのうえで、“何かをつくることが好き”という自分の特性は活かされているのかもしれません。

先日も、社員総会のオープニングで流すムービーを作成する機会がありました。撮影込みで2日間くらいでまとめ上げたのですが、それがとにかく楽しくて。改めて、自分は「つくること」が好きだなと実感した出来事でしたね。

「つくること」への熱意

元々、「つくること」に熱意や想いがあったのでしょうか?

はい。明確に何か大きなきっかけがあったわけではないのですが、「色々な体験を重ねるうちに自然と…」という感覚です。気づいたときには好きになっていたというのがしっくりくる表現かもしれません。

大学生のときから、自分のカメラを買って撮影をしたり、DTMにハマってたくさんの音楽をつくったり、Facebookに日常の出来事を創作としていくつも投稿していたり……。赴くままに、何かをつくったり、つくったものを眺めたりしているうちに、それ自体がどんどん楽しくなり、当たり前に存在するものになっていった感覚です。

デスク横の棚には撮影とDTM関連の機材が並ぶ

では、ずっとそういった「つくること」をお仕事に?

いえ、それはヤマップに入社してからですね。新卒で入社したIT企業では広報的な役割を担っており、つくることとは距離があったと思います。ヤマップに出会ったのは、子どもが生まれるのを機に東京から地元でもある福岡へ移住することを決めてからでした。

先ほどお話ししたとおり、比較的初期から働いていたこともあり、自分のできることや興味関心を仕事に直結させやすかったんです。入社直後から直近にいたるまで、その自由度があったからこそ、やれた仕事がいくつもありました。例えば、YAMAPユーザーでもあるアーティストxiangyu(シャンユー)さんとコラボした企画でMVを制作したのもその一つです。

社内イベントなどのオープニングムービーやアフタームービーを自主的に作っているのも同様ですね。盛り上げという観点でも、ちょっとしたユーモアは大事だと思っていて、企画・制作を楽しみながらしています。表に出ているものだと、ファミリーデイ的企画『岳宴祭』のコンセプトムービーなどがその例です。

お仕事以外でも、何かをつくられたりしているのでしょうか?

子どもが生まれてからはどうしても没頭できるような時間は減りましたが、それでも、気がつけば時間を忘れて手を動かしていたことは多々あります。たとえば、家族旅行した記録をまとめたムービーをつくったとき。「思い出をできる限り残したい」という気持ちはもちろん、結局はつくること自体が楽しいから、気づいたら手が動いているんです。

糸島での暮らしが、「つながるよろこび」をもたらす

2017年の福岡移住およびヤマップへの入社以後、担われるお仕事の変化とともに、考えや価値観にはどのような変化があったと感じますか?

さまざまな物事に対して、“つながり”を感じるようになりました。特に日々触れる自然や命に対して、そう感じる場面が増えたと思います。たとえば「いま使っているこの机の木材はどこからやって来たんだろう」、「いま食べているこの魚はどこで取れたんだろう」のような感覚です。いわゆる「センス・オブ・ワンダー」に近いかもしれません。

ヤマップは「地球とつながるよろこび。」をパーパスとして掲げながら、その実現に向けてさまざまな活動を展開しています。その過程に携わるなかで、日常の感覚にも変化が生まれてきたのだと思います。趣味や暮らしのなかで考えたこと、気づいたことが、仕事で活かされていると感じる場面も多くなりましたね。

スキルやマインドといったわかりやすい変化ではなく、「生きるなかにあるあらゆる要素がつながっている」という、ある種自身の持つ“感覚のようなものに変化が生じたイメージでしょうか。

それと関連して、より長い時間軸で物事を見たり、学んだりすることも増えた気がします。暮らしにしても仕事にしても、以前は長くて1年先くらいまでしか想像することがありませんでした。

子供が生まれたことも影響していると思いますが、それも今では10年先、あるいはもっと先の未来にまで考えを巡らせることが増えたと感じます。

それほどの変化があると、生活のさまざまな面でも変化が生じてきそうです。

そうですね。2023年2月に糸島へ移り住むと決めたことにもつながっていると感じます。

ヤマップ代表の春山さんの影響で、その土地の景色や風土を考え、その土地の良さや特徴に目を向けていくようになりました。そんな視点で暮らす場所を探していった結果、運命的に出会ったのが糸島だったんです。海と山の両方が近くにあり、野菜や魚なども豊富にとれる。東京にいた頃の自分だったらきっとそこまで惹かれなかったような場所かも知れませんが、それは今だからこそ魅力的に映ったのだと思います。

実際に暮らしてみて、初めて気づく糸島の自然や文化的な魅力もたくさんあって、それ自体がとても楽しいです。たとえば、5月には金色の麦が一面に広がっていた場所が、しばらくすると稲穂でぎっしりと埋め尽くされている。目の前にある情景の移り変わり、その一つひとつが自分にとっては新鮮で、かけがえのないものになっています。

“人が通る場所”にデスクを

今のご自宅をつくる上で重視したポイントを教えてください。

根底にあったのは、「暮らしのなかで頻繁に触れるものこそ、自分が心地良いと感じられるものを揃えたい」という価値観です。自分と家族が「ここなら心地良く毎日を過ごせる」と納得できる場所を選びたい。そんな想いが強くありました。

こだわりを持って家を探せば探すほど、その価値観はより確かなものになっていった気がします。一年以上探し続けて、ようやく見つかったのが今の場所。そこに前々からお願いしたいと思っていた工務店に依頼し、今の家を建てて貰いました。

立地、建築ともこだわり抜いた上での意思決定だったのですね。特に心地の良さを感じている場所やポイントはありますか?

ご覧の通り、家の各所に大きな窓があるのですが、そこは特に気に入っているポイントの一つです。窓を含め、風や自然光を通すための“抜け”にはとてもこだわりました。私も妻も子供の頃に抜けがよく、見晴らしの良い家に住んでいた経験があったことが影響しています。自分が遠くのものが見える空間を好み、逆に狭い場所を苦手としていることは、ここに住んでから気づかされたことの一つですね。

糸島の自然を間近で感じられる﨑村さんのご自宅

景色の変化を感じるうえでも、窓は大切な役割を果たしてくれそうです。ワークスペースに関しては、どのようなこだわりを持ってつくり上げているのでしょうか?

まずは場所でしょうか。私のデスクは階段を上がってすぐのオープンスペースにあります。この家自体いわゆるな個室がないのですが、このワークスペースも、1階のリビングの雰囲気も感じられるし、すぐ横にある寝室で子どもたちが遊んでても目が届きます。

ワークスペースの中心にはPREDUCTS DESKのGROVEがあり、背面には本棚、左側には飾り棚、そして目の前には自分の好きなアウトドアグッズを吊す棚を設けました。デスク上はすっきりとさせていますが、周辺は好きなものに囲まれているようにセットアップしています。

階段を上がってすぐの位置にある﨑村さんのワークスペース

たしかに、一般的な“仕事部屋”と言われる没頭できる個室空間…というのとは少々毛色が違います。集中する上で周囲が気になったりはしないのでしょうか?

むしろこの環境の方がいいぐらいでして。私はすぐに深く集中してしまうタイプで、周りから声を掛けられても気付かないほど。なので、周囲の音に影響されることが少ないのと、声を掛けて貰いやすいくらいの方がいいと思っているんです。

とはいえ、ワークスペースをこだわりを持ってつくり上げるようになったのは、この家に来てからのことで。以前は言ってみれば“物置”のような状態でした(笑)。色んな物があちこちに置かれていて、すっきりとは程遠いちらかりようだったんです。

今は、ケーブルが見えないように整えたり、自分のテンションが上がるものがすぐ目に入るように飾ったり、そうした細かい工夫次第でもっと気持ち良く仕事できる。そう実感しているので、この環境を維持したい、より良い空間にしたいという気持ちで、このワークスペースを作り上げています。

変わるものと変わらないもの。その両方を楽しみたい

ここまでのお話も踏まえつつ、﨑村さんが今後取り組みたいことや挑戦したいことがあればお伺いしたいです。

抽象的にはなりますが、人生というスケールで考えると、いま以上に没頭できる何かを見つけたいと考えています。

ここまで触れたように、いまの仕事はとても充実しています。会社として目指す未来にも共感していて、自分の好奇心につながる活動もできている。仕事と暮らしの境界が良い意味で曖昧になっていき、その結果生まれる新しい気づきや変化もたくさん感じています。

それだけ満足しているからこそ、長い人生を見据えたときに、いま以上に自分が没頭できること、夢中で取り組めることを探しているというか……自分でも欲張りだと思うのですが、突き動かされる何かを探す自分も、心のどこかにいるような感覚なんです。

現状に満足はしつつも、より深く夢中になれる何かがあるかもしれない。目の前に精一杯取り組みながら、その可能性を常に探求しているとも言えるかもしれませんね。

その意味でも、自分にとってはやはり「つくること」が鍵になると感じています。

仲間と共に色々なものをつくり続けていく。そのプロセスから、日々たくさんの刺激や気づきをもらっています。それがやがて、自分なりのテーマを見つけることにつながっていくかもしれません。そして、見つかったテーマを形にするためにも「つくること」は自分にとって欠かせない方法の一つになるはずです。

ライフスタイルから暮らしにおけるこだわり、自然との向き合い方まで、ここ数年だけを見ても数え切れないほどの変化がありました。そのなかにあって、以前から変わらないものがあるとすれば、それは「つくること」への好奇心なのだと改めて感じています。今後はこれまで以上に、自分自身の変わっていく価値観や考え方と変わらない「つくること」への好奇心、その両方を楽しみながら過ごしていきたいです。

ありがとうございました。

SHARE

  • LINEで送る