PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。
「仕事」とは、単に"生活のために稼ぐこと"ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、また人間と社会との繋がりを与えてくれること。
本連載では、そんな仕事を"シゴト"と呼び、"シゴト観"とその背景を紐解いていきます。
「半年ごとに仕事が変わるので、必然的に技術に頭でっかちになれないんです」
エンジニアとして不動産をはじめとする多領域を扱うAIスタートアップで働くしょうごなかむらさんは、緑豊かなワークスペースで自身の仕事との向き合い方をそんな言葉で表現します。
学生時代からデータサイエンスに着目しながら、技術を手段と捉え、何をなすべきかを常々考えてきたというなかむらさん。その姿勢を支えるワークスペースもまた、技術などにフォーカスしたテック感の強いものではなく、ご自身の価値観を反映してグリーンを多く配置し、視覚的にも快適な空間に仕立てられています。
エンジニアとしての価値観が生まれた背景から、ワークスペースに通底する価値観にいたるまで。なかむらさんの"シゴト観"を紐解きます。
エンジニアとして半年ごとに異なる挑戦を
はじめに、現在のなかむらさんのお仕事を教えてください。
基本的にはデータを扱うエンジニアとして働いています。半年ごとに仕事が変わっているのですが、現在はCTO室に所属し、社内の業務、特に不動産開発の事業部の業務をデータドリブン/AIドリブンにしていく役割を担っています。
最初はデベロッパー向けツールの機能開発にはじまり、不動産業者が使う住所「地番」をベースにした地図データベースの研究開発などを経験して、今に至ります。
基本的にはデータやテクノロジーを用いた領域でお仕事をされていらっしゃる?
そうですね、その都度会社において優先度の高い技術が必要となる領域を担っている感覚です。ただ、半年ごとに頭の使い方もインプットすべきことも全く異なるのでその都度苦労しながらやっています。
いまは不動産開発を担当する事業部で、熟練の営業職や企画開発担当を増やさなくとも、その知見や経験則を皆が扱えるようにするための業務支援・効率化のAIツールを開発しています。平たくいえば、エンジニアにおけるGitHub CopilotやCursorのようなものの、不動産開発版でしょうか。それを社内向けに構築しています。
技術は「目的」ではなく「手段」
なかむらさんは新卒で今の会社に入られています。学生時代からエンジニアを目指されていたのでしょうか?
意識しはじめたのは大学院への進学を考えはじめた頃でした。学部では物理学専攻だったのですが、大学院への進学を考えていた頃に読んだユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』や、安宅和人さんの『シン・日本』を通して、データやAI領域の重要性を感じたのが最初のきっかけです。
そこからデータサイエンスに近い領域を学べる研究室を探し、物理学出身で数理統計学を専門としていた先生の研究室へ進学しました。ただ、データサイエンスはあくまで「手段」です。「この手段を学びたい」と思い進学したのですが、実際にはそれを活かす領域、つまりドメインも必要です。大学院時代はそのドメインが見つけられずに苦労しました。
最終的には、ドメインを見つけるのではなく理論的な部分に着目し、論文なども書き上げたのですが、自分の中で技術を活かす「ドメイン」の探索はやり残した宿題のようなかたちで持ち越しになっていました。
そのドメインとしてしっくりきたのが、現在の不動産だった?
いえ、不動産に対しては特別な思い入れはありませんでした。就活でも分野を問わずデータサイエンスのようなテーマで探していましたし、現在の会社と最後まで横並びに検討していたもうひとつの企業も、別の分野でした。
ただ、就職した会社が不動産を入り口に建築や金融などの領域にまで拡張することを志向しており、その「広がり」に惹かれました。改めて考えてみると「ドメイン」というは今時点での枠組みでしかなく、今後その枠組みも大きく変わるかもしれない。
であれば、ドメインで考えるのではなく、ドメインのような枠組みを作る側、つまりルールメーカー側にいられるか否かで判断した方がいいなと思ったんです。その意味で、今の環境は領域に縛られず新しい産業を生み出そうとしているのでマッチすると考えました。テクノロジーで情報の非対称性の高い業界の課題を解決する———そんな抽象度がある立ち位置がいいなと直感的に思いました。
最小工数で最大のインパクトを出すために
「ドメインという枠組みで捉えない」とシフトされたんですね。現在お仕事をする中で、大切にしている価値観やマインドはありますか?
「この仕事で誰のペインがなくなるか?」「誰が価値を感じるか?」に常々立ち戻るようにしています。もっと言えば「これによってどんな世界線になるか」まで意識することもあります。
これは、今の環境が「テクノロジーは手段である」ということを強く意識することが多いことも影響しています。というのも半年ごとに役割や領域が変わるので、その都度いかに最小工数で最大のインパクトを出せるかを考えなければいけません。
技術者としては技術そのものに興味を持って基礎理論を把握したくなったり、先端技術を取り入れたアプローチなどを考えたくなったりするのですが、それが目的に対してベストなアプローチでなければ意味がない。時間的な制約がある中での挑戦だからこそ、技術そのものに固執せず、ゴールや目的から逆算して、何をどう解決すべきかを強く意識するようになりました。
ある意味、大学院での「技術は手段」という理解を深めるような機会になっている。
そうですね、課題が何かを明確にした上で、どの解決策を使うかという考え方の方が大事なのかと。言われてみれば当たり前のことですが、仕事として向き合うようになってから、より身にしみて理解できました。
ワークスペースで表現するバランス感覚
ワークスペースについてお聞かせください。ワークスペースにこだわりはじめたのはいつ頃からですか?
大学生の頃からです。デスクに限らず、部屋全体にこだわりを持ってあちこちいじっていました。例えば、部屋を広く見せるレイアウトを考えたり、ミニマルだけど機能性も両立しているような空間を作ったり、スマートホーム化してほとんどの家電をGoogle Homeで操作できるようにしたり...。
そうやって何かを構築する行為自体が好きなんだと思います。もちろん生産性や効率を上げるための手段でもありますが、根本では「ものづくりが好き」だからやっているような感覚です。
また、仕事がソフトウェア上で完結することが多いのもあり、ハードウェアをやりたいという気持ちがあり。その向かい先にワークスペースがなっている側面もあると思います。
いまのワークスペース、デスク周りを構築する上でこだわった点を教えてください。
植物とガジェットのバランス感覚でしょうか。機能性に振り切ってしまうと見た目が野暮ったくなり、一方で見た目を重視するとワークスペースとして不便な点が出てくることもあるので双方ちょうどいいバランスを探って今に至っています。
例えば、AppleのStudio Displayは、機能的には必要なものが全て盛り込まれている上で見た目がとてもクリーンです。ガジェット感が決して強くありません。
他方で、植物に関しては特にデスク周りは土が不要なエアプランツを選んで置いています。PC作業をする場所の近くに土があるのは少し抵抗があるので、グリーンの繊細な印象を持ちながらも扱いやすいという意味で、エアプランツはちょうどいい選択肢なんです。
「自分だけが必要とするもの」を深める
今後の展望についてお聞かせください。
不動産開発、さらにはまちづくりに関わる業務をデータ・AIドリブンに進化させ、人間はもっと価値創造に専念できる状態にしたいと考えています。
エンジニアの仕事はすでにその方向に進みつつあります。私自身、リファクタリングやデバッグといった雑多なタスクはもちろん、ほとんどのコーディングもAIに任せるようになりました。その結果、本質的にユーザーの課題をどう解決するか、どの技術で実現するかを考える時間が増えました。特にAIエージェントは、人間の介入なしに数十分規模のタスクを自律的に遂行できるようになってきています。私はそれを活用して、複数の独立したタスクをAIに並列で動かして業務を行なっています。
この仕組みを不動産開発の業務に組み込めば、人間は顧客接点の最大化や、まちの価値をどう高めるかといった本質的なまちづくりに集中できる。そうすることで、不動産開発は街全体の未来を形づくる営みに進化していくはずだと考えています。
ワークスペースに関して言うと、アイテムは自分の中で一通り揃ってきたという感覚があります。「こういう新しいガジェットが欲しい」というのは正直あまりないんです。ただ、ワークスペースの最適化という作業は好きですし、終わりがないとも思っています。
その意味で次に考えているのは、3Dプリンターを使ったカスタマイズですね。先日もMagnet Gadget Armを簡単に脱着するためのアタッチメントを作ったのですが、「こういうモジュールがあったらいいな」「こういうものがあったら便利だな」というものを、どんどん自分でモデリングして、プリントして試す。そうした試行錯誤を繰り返しながら、さらにワークスペースを最適化していきたいと考えています
製品化されるものはどうしても、一定以上の人が必要とする物になるかと思いますが、3Dプリンタがあれば「自分だけが必要とするようなもの」もつくれる。そんなカスタマイズを重ねていきたいです。
ありがとうございました。