ものと自分の間で変わり続ける楽しさ — Takuma

PREDUCTSは「いい仕事」を生み出す道具のメーカーです。

「仕事」とは、単に“生活のために稼ぐこと”ではありません。時間が経つことを忘れてしまうくらい没頭し、 充実感を与えてくれること。世の中に新たな価値を生み出し、文化・社会を前進させること。達成感や自己実現をもたらし、 また人間と社会との繋がりを与えてくれること。

本連載では、そんな仕事を“シゴト”と呼び、“シゴト観”とその背景を紐解いていきます。

写真、インテリア、アート、ハイキング、クラシックギター、編み物、3Dプリント、登山、DIY、彫刻、ヨガ......。

およそ一人が包含する趣味の数とは思えないほど、多種多様な分野に没頭しているのが、自らを「趣味人」と称するTakumaさんです。それも、ただ好きなだけではない。写真を突き詰めるなかでは写真賞を受賞したり、カメラにハマりユーザーコミュニティを運営したり、3DプリントでSIGMA fpのアクセサリやPREDUCTS DESKのモジュールを自作・販売すると、メーカーから声がかかったり。いずれも、その“没頭度合い”の深さを感じさせる成果まで垣間見えるほど。

飽くなき興味の源泉はどこにあるのか。そして、没頭し続ける熱量はどこから生まれるのか。自分の「好き」を突き詰め続けるTakumaさんの哲学を伺いました。

0→1より、1→10のものづくりへの関心

はじめに、Takumaさんが様々なことに興味を持つようになったきっかけについて教えてください。

おそらく様々な要素の掛け合わせではあるんですが、強いて一番のきっかけを挙げるなら、成人式に部活の顧問の先生から送られたビデオメッセージなんです。その内容は「君たちには時間がたくさんあるから、一日一冊本を読みなさい」というものでした。

今振り返るとそこまでユニークな話ではないのですが、私はそれを真に受けて、それから一年間、本当に毎日一冊ずつ本を読み続けてみたんです。ジャンルも定めず、図書館に行って手が伸びたものをとにかく雑多に。忙しい時は、児童書や雑誌で乗り切ったりもしましたが、とりあえずやりきってみたんです。

Takumaさんの本棚。この中でのお勧めは『自己隔離期間の線型代数 I 』(著:渕野 昌, イラスト:panpanya)

一年間は凄いですね。その時読んだ本が趣味や仕事などにもつながっているのでしょうか。

そうですね。当時は研究対象で、今の仕事でもある分野に関する本も読みましたし、裁縫の本も、写真集も当時から読んでいたと思います。他にも、最近はランニングをしているのですが、体の動かし方やランニングに関する本も当時読んでいたと記憶しています。

膨大なインプットが土台にあり、興味関心の幅が大きく広がったんですね。大学の研究が今のお仕事にも繋がったとのことですが、今はどのようなお仕事を?

理系の研究職で、端的に言うと「暗号解読」の研究をしています。完璧な安全性を目指して作られた暗号のアルゴリズムに対し、その不完全さを探り評価する研究です。他にも、ソフトウェアや通信プロトコルのセキュリティ評価も行っています。

ただ、粗探しをする…といったニュアンスではなく、綻びを見つけ、より良い暗号にアップデートしていくのが仕事ですね。

研究職なんですね。趣味が比較的「ものづくり」に関するものが多いので何かしらを作るお仕事なのかと思いました。

自分の中では、ものづくりとも通底はしている部分があるんですよ。元々、物事の仕組みや構造を解明するのが好きで。小さい頃はおもちゃを分解して遊ぶような子どもでした。そういった特性が、暗号解読という仕事になったり、ものづくりという趣味になったりして表出しているのだと思います。

部屋の随所を、さまざまな“作り手”による作品が彩っている

学生時代から一貫して取り組まれているのは、それだけ暗号解読に面白さがあるからなのでしょうか?

それも一因ですが、大きくは二つあります。一つは「人」に向き合うよりも、「人が作ったモノ」に向き合うことにモチベーションがあったから。もう一つは、0→1のものづくりより、1→10の方が得意だと思ったからです。趣味という観点でも人よりモノへの関心が高かったですし、暗号をゼロから生み出すことは難しいけれど、それを良くすることならやれるという気持ちからです。

そうしたマインドは趣味とも繋がっていますか?

そうですね。例えば、私が趣味で販売しているSIGMA fpのアクセサリやPREDUCTS DESKのモジュールを作るのも1→10だと感じているので。すでに形あるものをより良くしていく、それによって自分の生活や身の回りの社会が良くなっていく、ということが向いているし、関心があるんだなと感じています。

PREDUCTS DESKの裏面にもオリジナルのモジュールがいくつも付いている。ブロワーを吊るモジュールに、iPad mini用モジュール

ちょうどよい、創造性を開放するもの

今まさに挙げられたSIGMA fpやPREDUCTS DESKは、単に使うだけでなくご自身で手を加えたり周辺機器の販売もされています。両者に共通しているのは何なのでしょうか?

大きく二つあります。一つはコンセプトの面白さ。例えば、SIGMA fpのコンセプトは、「デジタルカメラの脱構築」です。このコンセプトを知った時、カメラには自分がまだ知らない奥深さがあると思ったんです。

PREDUCTS DESKも「Space for Good Work」を掲げ、天板の裏を自由にカスタムできるという発想に惹かれました。というのも、小さい頃から、学習机を改造したりはしていたんです。本をピッタリ揃えるために、棚の位置をずらすとか。でも、天板の裏をカスタムするというアイデアはなかった。自分が気づいていなかった価値観を提示してくれるものに強く惹かれるのかもしれません。

もう一つは、研究対象と同じで、深掘り甲斐がある。いくら深掘っても飽きない、自分の興味関心に耐えうるというようなイメージです。ですから、SIGMA fpもPREDUCTS DESKもずっと触っていられる。いろんな可能性を秘めていて、変化し続けそうだと思うんです。

SIGMA fp。レンズも同社の45mm F2.8 DG DN | Contemporaryだが、レンズフードはTakumaさんがオリジナルで開発した3Dプリントのもの

これまでも、同様に熱中されたものや深掘り甲斐を感じたものはありましたか?

いえ、実はこの両者が初めてで。ただ、自分自身長年ものづくりに対しては熱意があり、0→1ではないけれど、作ることはし続けてきました。その経験の上で両者を見ると、「ちょうどいい創造性をかき立てるもの」だったんだと思います。

例えばSIGMA fpの場合、脱構築という言葉の通り、様々なモジュールを組み合わせて楽しむコンセプトなので、メーカー側でもアクセサリがたくさん作られている。良い意味で模範解答があったので「これなら自分でも作れるかも」と思えたんです。

ご自身の創造性を解放するのに適切な難易度だったんですね。

あとは、3Dプリンタを買ったのも大きいですね。当初購入したのは、カメラやデスクのアクセサリを作るためではなかったのですが、別の部材でSIGMA fpのアクセサリを作ろうとDIYしていた時に、ふと「これ3Dプリンタで作れるんじゃないか」と思い。そこからどんどんのめり込んでいきました。

3Dプリンタは、Prusa ResearchのORIGINAL PRUSA MK3S+。ハウジングはDIYで制作したという

作られたものを販売しはじめたのはなぜだったのでしょう?

「モジュールやアクセサリをつくるという行為自体、やろうと思えば誰でもできるんだ」と伝えたいからです。私自身、「これなら自分でも作れるんじゃないか」と思ったような経験をもっと多くの人がしてほしい。

ただ、単にSNSで一回発信しただけではすぐに忘れ去られてしまいます。販売すれば継続的に発信がしやすいですし、持続可能な形で実際に手に触れてもらえる可能性が生まれる。そうなれば、手にとっていただけた方にも「自分にも何か作れそうだ」と感じてもらえるのではないか…そんなことを考えて販売しています。

同時に、一人の作り手として「私のつくったものを土台に、もっといいアイデアを見せてほしい」という気持ちもあるんです。自分自身“これが良いんじゃないか”と思いながら作ってはいるものの、それが本当にいいか否かは分からない。売ってみたら思ってもみない使い方をされることもありますし、もっと良い作り方を教えてくれるかもしれない。そういう楽しさがあります。

自分のような体験を広げたいという気持ちと、作り手としての探究心がきっかけだった。実際、私たち自身Takumaさんの「PREDUCTS DESK FlexiSpotリモコン用 アタッチメント」の利便性に驚き、ご相談の上で製品化させていただくなど「作り手として触発された」感覚があります。

「なので、私もそのご相談をいただいた時はとても嬉しかったんです。

ただ、それ以上にPREDUCTS公式で作られたモジュールの形状が、最終的に自分の考えた形状を比較的踏襲されていたことが嬉しかったですね。あの設計は一定正解だったんだな、と。

左:Takumaさんによる3Dプリント版/右:アルミ削り出しで製作したMount for FlexiSpot Controller

変化自体が楽しさである

アクセサリやモジュールを販売するようになり、作り手として変化したなと感じる部分はありますか?

意外と、研究の仕事に影響しているように感じます。

他者の視点を自分ごと化しやすくなった、といいますか。販売をしていると、いろんな意見をいただくんです。例えば、先ほどのリモコン用アタッチメントを販売しはじめたころ、「強く押すと曲がる」といったコメントをいただいたことがありました。私はクラシックギターを演奏するため親指の爪を伸ばしているので、基本優しく押すことが前提だったのですが、当然そうではない人がたくさんいるわけで。

自分とは違う価値観の人がいる——言葉にすると当たり前に聞こえてしまいますが、その事実を身をもって理解し、自分の前提に組み込まれた感覚が非常にあるんです。

これは本業における異業種の方との協業に役立っています。私は研究職ではありつつも、領域の異なる専門家の方々とコミュニケーションをとりながら一つのサービスやプロダクトをつくったりする仕事をしています。その中では、立場や考え方、前提の異なる人と共に物事を前にすすめなければいけない。それを進める上で、先ほどお話しした前提の感覚値が生きているんです。

Takumaさんが作る、SIGMA fpのアクセサリやPREDUCTS DESKのモジュール

趣味での経験が本業に活きたり、かたや本業での研究と向き合う姿勢が趣味へも波及していたり。Takumaさんの中ではその境界がいい意味で曖昧な印象を受けます。

そうですね。生活と仕事が渾然一体となって、螺旋を描くように影響し合う生き方が理想的だなと思います。自分が変化すれば、アウトプットがどんどん変わり、そのアウトプットによって、自分自身が再び変化できたり、誰かが変化したりする。そうしたループは生活も仕事も垣根はない。それ自体が私にとっては楽しみなんだと思います。

変化し続けること自体に、楽しさがある。

これは暗号解読からずっと一緒です。対象を観察する中で「もっとこうした方が良いんじゃないか」というアイデアが浮かぶ。それはつまり、自分自身の“対象に対する捉え方”が変わるってことです。そのアイデアを実装すると、今度は対象が変化し、再び自分の見方も変わり、新たなアイデアへと繋がっていく。

ものづくりのプロセスは、変化の連続です。例えば、初めて3Dプリンタでものづくりをした時、全然うまくいかなかったんです。寒い時期だったので、フィラメントがベットから剥がれなくて。でも、それがすごい面白いと感じた。なぜうまくいかないのか、どうすればうまくいくか、試行錯誤のしがいがあるな、と。その過程で、自分自身も相手も変化していきますよね。

ありがとうございました。

部屋の全体像

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